「一連の問題は、情報システムにかかわるすべての人間にデータ品質の重要性を改めて突き付けている」。KDDIのCIO(最高情報責任者)を務め、現在は情報システム総研の社長としてコンサルティングを手掛ける繁野高仁氏が指摘するのが、社保庁のいわゆる“消えた年金5000万件”騒動である。

 消えた年金記録問題の実体はデータにかかわる不手際そのものだ。個人と年金番号を正確に結び付ける仕組みがなく、転職した際などに過去の年金記録を引き継げていなかった。しかも年金の受給そのものが加入者任せの申請主義で、過去のデータを修正するための組織的な仕組みが不完全。これに入力間違いが重なった(図1)。

図1●社会保険庁の年金記録問題が提示した「データ品質問題」
図1●社会保険庁の年金記録問題が提示した「データ品質問題」

 2007年9月10日には、5000万件のうちの約1割を占める524万件については、氏名を入力していなかったことが明らかになった。データ入力のずさんさを象徴する出来事である。

 社保庁で、消えた年金記録問題が顕在化したのは、1997年の国民年金、厚生年金、共済年金の年金番号体系と年金番号の統合作業でのことだ。個別に分かれていたデータベースを照合する過程で2億件の不明記録が判明した。

 その後10年をかけて名寄せを進めたにもかかわらず、5000万件が不明のまま。政府は年内にもこの問題を解決すると発表したが、先行きは予断を許さない。

 「ひどい話だ。データの管理がまったくなっていない」。社保庁の年金記録問題で、このような感想を抱いた人は多いことだろう。

 しかし、考えてみてほしい。「正しいと思っていたデータが、実は間違っていた」「会議資料に掲載した販売実績のデータと、社長が見ているデータが食い違っていた」――。あなたの会社でも、似たような問題と、それに起因する現象が起きていないだろうか。

他人事でないデータ品質問題

 「データ品質の劣化によるトラブルは、多くの企業にとって他人事ではない」。データモデルを中心に据えたシステム構築のコンサルティングを手掛ける、ビジネス情報システム・アーキテクトの手島歩三代表取締役はこう断言する。

 企業が扱うデータ量の増加、システム間連携ニーズの拡大、インターネットを介した社内外とのデータ授受の広がり。こういった情報システムの潮流も、データ品質をより重要な問題として浮かび上がらせている。