「お前みたいな子はいらん!」。

 子供のころ,度を越した悪事を働くと,親にこう言ってしかられた。この言葉,「ほめて伸ばす」という今どきの教育論からはいかがなものかと思う。だが,親は親なりにわが子の行く末を案じていた。「まともな大人になってほしい」という願いと「なんで言うことをきかないのか」というじれったさが相まった表現が,「お前なんかいらん!」だったのだろう。まさか,本当に「いらん!」とは思っていなかった(はずだ)。

こんなSEはいらない!
こんなSEはいらない!
岩井孝夫著 税込価格1470円 日経BP出版センター ISBN:978-4-8222-2982-5[画像のクリックで拡大表示]

 ずいぶん昔のことを思い出したのは,ある書籍の編集を担当したからである。その書名を,「こんなSEはいらない!」という。この書籍は,岩井孝夫氏が「日経ITプロフェッショナル」と「日経SYSTEMS」の2誌に連載したコラム「こんなITエンジニアはいらない!」をまとめ,改題したものだ。開発現場でSEが引き起こしがちなトラブルとその予防策を,58の事例に基づき解説している。ITProでも連載の一部が公開されているので「ああ,あれか」とピンと来る方も多いと思う。

 それにしても,SE向けの書籍に「こんなSEはいらない!」とは,なんとも挑発的だ。「身もふたもない」「大きなお世話だほっておけ」と感じる向きもあろう。しかも,ページをぱらぱらめくると「プロジェクト破綻」「開発中止」「スケジュール遅延」などなど,不穏な言葉が躍る。

 しかし,本書は単なるSEの自虐ネタ集ではない。なぜなら,失敗したSEを一方的に断罪することは一切ないからだ。入社1年目にして「自分にはSEの適性がない」と勝手に見切りを付ける新人SE,協力会社のSEと大げんかして現場から引き上げてしまったベテランSE,進捗のことしか考えず部下を肉体的にも精神的にも追い詰めるマネージャ…。著者は,その誰一人として突き放さない。なぜ失敗したのか。どうすれば回避できたのか。これからどう巻き返せばよいのか。開発現場の落とし穴に落ちたSEが,そこから這い上がるヒントを必ず指し示している。

 刺激的な書名は実は,「いらないSEなんて一人もいない」「必要とされるSEになってほしい」という著者の思いの裏返しである。長年にわたってIT業界に身を置き,数多くの後進を育ててきた著者ならではの“親心”と言ってもいいかもしれない。

 例えば,記念すべき一人目の「いらないSE」が登場した日経ITプロフェッショナル2002年6月号のコラムのあらすじは次のようなものだ。

 あるベンダーのSE,Yさんは担当顧客のD社から「営業管理システムを刷新したい」と相談を受けた。Yさんは「D社のことならよく知っている。ヒアリングするまでもない」と,自信たっぷりで提案書を作成した。ところが,D社の情報システム部長から「君は当社の事情を分かっていない」と一蹴された。

 Yさんがとった行動の何がいけなかったのか。著者は,提案前のヒアリングを省いた点に注目する。Yさんは,D社の営業管理システムの問題点を理解していると思い込み,詳細を確認しなかった。その結果,真のニーズを見落とし,的外れの提案をぶつけてしまった。

 この事例から,著者は次のような教訓を引き出す。

 どんなに付き合いの長い顧客が相手でも,何か案件を持ちかけられたときにはその真意や背景を徹底的にヒアリングすること。それが,提案を成功させる第一歩である。

 詳細は書籍に譲るが,どうだろう。掲載から5年以上たった今でも十分に通用する話ではあるまいか。「テクノロジは変遷しても,SEという仕事の原理原則は何年たっても変わらない」。本書を一通り読めば,そんな著者の言葉にうなずいていただけると思う。

 今年も残すところ約1カ月。本書が,皆さんが2007年の自分を振り返るきっかけや,2008年の目標を決めるときの道先案内になれば幸いである。もちろん,「わっはっは。こんなやついるいる」と純粋に楽しんでいただくのも大歓迎だ。