野本 明日香(のもと あすか)
JTBモチベーションズ コンサルタント。日本ヒューレット・パッカードにて,ITコンサルタントとして製造業を中心に,ビジネスプロセスの構築からシステム設計・運用までに携わった後,パッケージ・ベンダーの採用や社員育成に携わる。現在はJTBモチベーションズで,モチベーション・コントロールを軸とした,企業向けのコンサルティングを行っている。モチベーション理論やNLP(神経言語プログラミング)のカウンセリング理論のノウハウを活かし,個人と組織を活性化させるコンサルティング,研修講師,講演などを行っている。メルマガ無料配信中。

 今回はモチベーション向上の基本の一つ,目標設定についてお話ししていきましょう。

 モチベーションは様々な要因によって上がることは,これまでにお話ししましたが,特に,自分にとって実現したい「目標」があるときに,モチベーションは上がりやすいといわれています。

 例えば「自分は情報処理技術者の資格を取りたい」。これもモチベーションが上がる目標になり得ます。「将来,憧れの○○さんのようになりたい」「今年度末までに基幹システムをカットオーバーする」「来週末までに伝票入力システムを完成させる」。これらも,モチベーションが上がる目標になり得ます。

 自分のモチベーションが上がる目標を設定するためには,大切なポイントがあります(図1)。(1)目標が明確であること,(2)目標が「自分にとって」魅力的であること,(3)目標の達成基準が明確であること,そして(4)目標のレベルが適切であること――です。順に解説していきましょう。

図1●明確で自分にとって魅力的な目標を設定するとモチベーションが上がりやすい
図1●明解で自分にとって魅力的な目標を設定するとモチベーションが上がりやすい

(1)目標が明確であること

 「情報処理技術者の資格を取りたい」というのは明確な目標ですね。「IT関係の資格が欲しいな」ということでは漠然としていますが,「この資格を取りたい」という具体的な目標設定ができると,モチベーション向上にもつながりやすくなります。

 「将来,憧れの○○さんのようになりたい」という目標であれば,具体的に○○さんのどんなスキルを身に付けたいのか?ITスキルなのか,プレゼンテーションスキルなのか,交渉力なのか,それともコミュニケーション・スキルなのか?といったことまで定義すれば,目標がより明確になります。そうすることで,自分が○○さんに近づくために,どのように努力すればよいかが分かります。

 さらに,「目標を達成したとしたら,何が手に入るか?」「達成した瞬間,どのような情景が思い浮かぶか?」「お客様から,上司から,あるいは周りの人からはどんな言葉が聞こえてくるか?」「目標を達成したときに,あなた自身が感じる感情」を想像してみてください。目標は,そこまで明確にしていきましょう。

(2)目標が「自分にとって」魅力的であること

 その目標が「本当に自分にとって魅力的で,意味があることかどうか」はとても大切です。情報処理技術者の資格を取りたいとすれば,「それが本当に自分にとって魅力的かどうか」「その目標を達成することは自分にとってどんな意味があるのか」を自分自身で知っておく必要があります。

 世間的には魅力的な目標でも,自分にとっては魅力を感じないということもあるはずです。もし「自分にとってあまり魅力的ではない」と感じたら,ほかに適切な目標に切り替えた方がよいでしょう。

 例えば,「英語がうまくなる」という目標を立てたものの,「英語ができるようになってどうなるんだろう」といざ考えてみると「自分にとってあまり魅力的ではないな」と感じることもあるでしょう。こういうときも,「米国に赴任して世界のエンジニアと一緒に仕事をし,スキルアップして日本に帰ってその技術を日本でも広める」という明確な目標を立てれば,魅力的になるかもしれません。ぜひ,自分にとって,魅力的な目標設定をしていきましょう。

(3)目標の達成基準が明確であること

 「どこまでやれば目標を達成したことになるか」という,目標の「達成基準」も明確にしましょう。要は「達成した」というエビデンス(証拠)をハッキリさせるということです。資格の場合は「合格」がエビデンスになります。システム構築で言えば「納期内に計画した機能を実稼働させる」こともエビデンスになるでしょう。

 業務上の目標などは,ときとして達成基準が分かりにくい場合があります。もし達成基準が分かりにくければ,目標を明確に鮮明にイメージできていない可能性があります。その場合は,目標をさらに明確にしていく必要があります。

(4)目標のレベルが適切であること

 米国の心理学者アトキンスンが提唱した「達成動機理論」によれば,モチベーションは目標の達成確率が五分五分(5割)になったときに最も高まります。この「成功五分の法則」は,モチベーションを向上させるための極めて重要な法則です。難しくもなく,易しくもないレベルが,最もやる気を刺激されるのです。

 でもこれは,「目標のレベルを上げよ」あるいは「目標のレベルを下げよ」と言っているのではありません。

 とてつもなく大きな目標をかかげて実現性をあまり感じられなかったとしても,それをどのように実現していくのか,という道筋を明確にすることで,より実現性が高まり,モチベーションも上がることがあります。目標を達成するまでの道筋は,(1)いつ,(2)どのようなリソース(人,情報,もの,お金など)を使って,(3)どのように---という3つの要素を明確にすることで見えてきます。

 目標達成までの道筋が見えた途端,ハードルが感じられなくなりモチベーションが下がる,という“サバイバル志向”の方もいらっしゃるかもしれません。その場合は,目標のレベルをさらに上げるなど,ご自身にとって一番モチベーションが上がりやすいよう,目標を調整するとよいでしょう。

 次回はさらに詳しく目標設定/実現化に向けてお話ししていきましょう。お楽しみに。