小型機器用のμTCA規格も策定

 ATCA規格のブレードはおおよそ28cm×32cmのサイズを持つ。高性能CPUなどの部品点数が多い機器には向くが,一般的なインタフェース・カードとしては大き過ぎる。組み込み装置のインタフェース・カードとしては従来,PCIカードと同様の論理インタフェースを持つPMC規格カードが使われていたが,PICMGはATCAに対応したAMC規格を策定した。

 AMCの最大の特徴は,データ転送インタフェースにATCAと同じATCA EthernetまたはPCI-expressを使っているところ。しかもフルサイズのATCA規格と同様に,IPMIインタフェースをそれぞれのカードに持ち,ホットスワップなどの保守機能も備える。

 AMCカードには6種類のサイズが規定されており,それぞれのカードに搭載されるハードの規模に合わせて選択できる。このAMC規格のボードだけでシステムを構成したものがμTCAと呼ばれる規格である(表1のMTCA.0)。

 μTCAはボード・サイズが小さいため,種々の大きさのきょう体を定義できる(図3)。文庫本程度の大きさでも実現可能のため,小型・低コストが必要とされる装置にもキャリア・グレード・アーキテクチャを適用できる。

図3●μTCAとATCAを構成するAMC
図3●μTCAとATCAを構成するAMC
AMCには厚さとモジュールの数によって6種類のカードがある。これを収めるμTCAシャーシ(Shelf)にはいくつかのパターンがある。ATCAシャーシにはキャリアボードを使って収容する。
[画像のクリックで拡大表示]

 μTCAは,ATCAのLANスイッチとShMCの機能を持つMCH(MicroTCA carrier hub)と呼ぶカードを設置する。電源もAMCと同じサイズのPM(power module)カードを実装する。ATCAシャーシにはAMCカードをキャリアボードやCPUブレードなど別のブレードに搭載してから実装する。

SCOPEがATCAプロファイルを定義

 PICMGは,ATCA規格を広く利用できることを目的に,応用用途を含めて広く規定している。ただし機器ベンダーにとってはキャリア・グレード・ベースのプラットフォーム(CGBP)として,どの規格の装置を開発すればほかのベンダーと互換性を取れるのかが不明確である。そこでSCOPEアライアンスは,CGBPとしてあるべき仕様を「プロファイル」と呼んで策定した。

 SCOPEが定義したATCAプロファイルでは,(1)ATCAはPICMG3.1のATCA Ethernetを使う,(2)ShMCとシステム・コントローラとのプロトコルにはRMCPを使う,(3)カードはAMC規格を採用──というようにPICMGの規定を限定している。さらに,現在のPICMG規格にはないが,CGBPに必要な機能として,(1)自律診断/試験の充実,(2)ストレージ・デバイスの接続,(3)遠隔でのファームウエア・ダウンロード──などを提言した。

 これらは今後のATCA規格の課題ともいえる。実際,PICMGではファーム・ダウンロードの規格化などを進めている。IPMCファームウエア・アップグレードについては,2007年5月4日にHPM.1と呼ぶ規定が制定された。

共通PFを土台に個別ハードを搭載

 ATCA規格を使うことで,多様なシステムの構成が可能となる。

 まずは装置を,装置共通部(共通PF:PFはプラットフォーム)と装置個別部に分類する。共通PFはハードウエアとして,ATCAシャーシ(PEM,FAN,ShMCを含む),スイッチ・ブレード,CPUブレードで構成され,OSにはCGLを,ミドルウエアはHAミドルを採用する。この共通PFを土台に個別ハードを搭載し,装置個別のアプリケーションを実装することで,NGNで使われる様々な装置を実現する(図4)。例えばNGNサービス・プラットフォームのI/P-CSCFHSSなどは,共通PFと個別アプリケーションという二つの構成要素だけで実現できる。

図4●ATCAでの装置実現例
図4●ATCAでの装置実現例
共通PFを土台に個別ハードを搭載し,装置個別のアプリケーションを搭載する。
[画像のクリックで拡大表示]

 この二つの構成要素を基本に,さらに個別のハードウエアを追加すると,別の装置を構成できるようになる。個別ハードにRAIDやメディア処理ボードを追加するとVOD装置やMS装置を,メディア処理ボードやパケット処理ボードを追加するとSBC(session border controller)を,SS7ボードを追加するとSGW(signaling gateway)を,VoIP処理ボードやATMボードを追加するとMGW(media gateway)を,それぞれ実現できる。

 以上のように,システムの共通部分を多くすることで,個別部分の新規開発量を抑えられる。その結果,開発期間/コストを抑制できる。

 “装置個別ハード”の物理インタフェースはすべて同じ規格のため,同一のシャーシ内にSBCとMGWなどの複数の装置を搭載できる。こうしてコスト・メリットだけでなく,種々の装置の結合による新しい機能を持つ装置の出現を期待できる。