ガートナー ジャパン 亦賀 忠明氏 亦賀 忠明氏

ガートナー ジャパン リサーチ部門 エンタープライズ・インフラストラクチャ担当バイス・プレジデント
インフラ市場全般について、ベンダー戦略、ユーザーIT戦略などに関する様々な提言・アドバイスを行っている。

 ITを巡る環境は大きく変化しつつある。「Web2.0」「SaaS」「SOA」「仮想化」といったキーワードは、既に多くの人々が認知するところであり、ユーザーやベンダーにおいてさまざまな取り組みが開始されている。一方、こうした動きと並行する形で、ITの価値をビジネスの成長に直結させようとする動きが世界的に見られる。現在議論されていることは、単なるスローガンではなく、新しく登場したテクノロジや発想をビジネス成長につなげるにはどうすべきか、ということである。

 一見すると当たり前のような話だが、実は、ここ数年のITの動きから考えれば、全く新しい動きである。特に日本においては景況感も良くなく、ほぼすべてのユーザーが「コスト削減」に注力していた。ここでは、チャレンジよりもリスクを犯さないことが優先された。確かに、何でもむやみに変えることは得策でない。

 しかし、ビジネスをさらに成長させるためには何をすべきか、という観点に立った場合、ITの力を再認識し、それを成長に結び付けようとする考え方自体は極めて自然かつ前向きなことであり、こうした考えが世界の共通認識になりつつあることを理解しておく必要がある。

 このような方向性の裏側には、極めて多くのビッグチャレンジが隠されている。例えばSaaSは、従来のシステムインテグレーションやソフトウエアの在り方、事業、市場そのものを破壊する可能性がある。よって、多くのベンダーがSaaSに対しては、慎重な発言を繰り返している。SaaSの考え方を突き詰めていくと、ユーザー企業で情報システムを持つこと自体が問われてくる。このままいくと、情報システム部門は行き場を失ってしまう可能性がある。

 多くの注目と期待を集めている仮想化はどうだろうか。ガートナーでは、仮想化はサーバーの出荷台数に対してネガティブインパクトをもたらすと見ていたが、実際、2007年第1四半期に国内のx86サーバー市場はかつてない低迷を見せた。「サーバーの数を減らそう」とユーザー企業に提案していたベンダーは、そういう状況になって「困った」と言う。本音では、ベンダーは引き続きサーバーの出荷台数を増やしたいのである。

 このように新しいテクノロジや発想により、これまで必要とされていたものが不要となる可能性が出てきている一方で、ビジネス面でITの新しい可能性が生まれつつある。例えば、ハードウエアの飛躍的な性能向上だけをとってみても、スケールの拡大と大幅な時間の短縮をビジネスにもたらす。スケールの観点では、圧倒的な性能を獲得することで、ユーザー企業は、日本だけではなく全地球をターゲットにしたトランザクションを考えられるようになる。一方、時間の観点では数週間、数日かかっていた処理をリアルタイム化することができる。

 ただ新たな可能性が生まれている陰で、電力や発熱の環境問題が日増しに重大なものになってきている。一気に解決はできないが、時代が“グリーンIT”実現の方向に向かっているのは確かで、どうやって新たなステージにたどり着くか、ユーザー企業やベンダーに問われている。それは同時に、かつてないほどのチャンスをもたらしている。変化に対応できた者こそが、次のリーダーとなる。