洗濯後の衣類乾燥にヒートポンプを使った製品が両社から登場。洗濯乾燥機の中では最上位機種に位置づけられる。右上写真は松下電器の前モデルVR1000に内蔵されたヒートポンプユニット
洗濯後の衣類乾燥にヒートポンプを使った製品が両社から登場。洗濯乾燥機の中では最上位機種に位置づけられる。右上写真は松下電器の前モデルVR1000に内蔵されたヒートポンプユニット

 国際連合大学の安井至・副学長を主席調査員とする「エコミシュラン」。今回のテーマは、洗濯乾燥機。安井副学長は、「各メーカーが個性的な新製品を打ち出した。改めて議論したい」と調査員を集めた。

 当時は、乾燥時の環境負荷が焦点になった。衣類を乾燥させるヒーターの電力消費が大きく、乾燥時に槽内に残る湿気を水冷除湿するため、機種によっては洗濯時以上の水を消費することにも関心が集まった。

 調査員Cは、「今回も乾燥時の環境性能が評価のポイントです」と議論を先導し、各社の新製品の特徴を全員に説明し始めた。

 広い槽内で衣類を舞い上がらせて温風が当たりやすくし、乾燥時間を短縮した製品(日立アプライアンス・BD-V1)もあれば、最終すすぎ水をため置き、水冷除湿などに使って節水を図る製品(三洋電機・AWD-AQ1)もある。そんな中、「消費電力量の点で最も注目すべきはこれ」と調査員Cが紹介したのは、ヒートポンプ乾燥方式を採用した松下電器産業のNA-VR1100と東芝コンシューママーケティングのTW-2500VCだ。

乾燥時の電力消費を半減

 ヒートポンプ乾燥方式は、エアコンの冷暖房や除湿機能を応用した技術。大気中の熱を使うために投入した電気のエネルギー以上の熱を使えることから、ヒーターに比べてエネルギー効率が高くなる。

 ヒートポンプ内の冷媒を圧縮させると生じる熱で空気を温めて乾燥させ、洗濯・乾燥槽内に送る。衣類の水分を蒸発させた後、湿気を含んだ空気を、今度は冷媒の減圧で空気から熱を奪うと湿気が結露する。この結露を排出して除湿する仕組みだ。冷却水が不要で、節水にもつながる。

 洗濯から乾燥まで連続運転する場合の容量は両社製品とも6kg。消費電力量はともに1500Wh前後とヒーター乾燥方式の半分に近い。東芝コンシューママーケティングの製品は、ヒートポンプを洗面所の冷房・除湿にも使う。調査員Bは、「風呂上がりの清涼感のためにエアコン機能まで付けるのは過剰」と眉をひそめる。

 安井副学長は、「乾燥時の消費電力量の抑制が大きな課題だっただけにヒートポンプの搭載は画期的」と述べ、ヒーター乾燥方式と比較するLCAデータの作成を指示。調査員Cが概算()を示し、「消費電力量の差がそのまま、製品ライフサイクルでのCO2排出量の差につながった」と報告した。

●ヒートポンプ式(NA-VR1100)とヒーター式のライフサイクルでのCO2排出量
●ヒートポンプ式(NA-VR1100)とヒーター式のライフサイクルでのCO2排出量
製造段階は過去にメーカーから発表された全自動洗濯機やエアコンの素材別重量などを参考に算出。使用段階の条件は、洗濯~乾燥の連続運転を週2.25回、洗濯のみを週4.5回とし、カタログ掲載の消費電力量を基に算出した

 これを見た調査員Bは、「乾燥時の環境負荷ではヒートポンプが優位。他社のヒーター乾燥方式の製品は省エネ性をアピールできない分、除菌や消臭といった付加機能で補おうとしている。両者の違いは明らか」と指摘し、「今回は結論が出るのが早い」と物足りない様子だ。

                 
  安井至・主席調査員   安井至・主席調査員
国連大学副学長。LCAの視点で環境問題の常識・非常識を解き明かし、広く情報発信する
  調査員A   調査員A
様々な製品分野の生産技術に詳しく、LCA評価手法の向上にも熱心に取り組む
 
                 
  調査員B   調査員B
企業と市民、双方の視点でグリーン購入のあり方を研究し、具体的な基準作りにも参画する
  調査員C   調査員C
東大・安井研究室のOG。LCAのインパクト分析が専門で、重金属や情報技術に精通する
 
                 
構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ