電子商取引の市場は企業間取引がけん引してきたが、最近ではインターネット通販など企業と個人を結ぶ「B to C」の伸び率が大きく、2003年の市場規模は対前年比65%増の4.4兆円となった(経済産業省、2004年6月発表)。単価の低い書籍や音楽・映像ソフトの購入は、パソコンユーザーに浸透し始めている |
調査員Bは、インターネット通販(以下、ネット通販)のヘビーユーザー。「信頼のおける店のホームページを探し、安く買うコツもつかめてきました」と得意気だ。これとは正反対なのが調査員A。「商品はお店で現物を見て、店員さんから情報を仕入れながら買うのが基本」と譲らない。
これを聞いていた安井副学長が間に割って入り、「それぞれ利点はあるだろうが、決着は環境でつけよう。どちらが環境負荷の低い消費行動なのか、利用機会の多い書籍や音楽ソフトを中心に検討してみないか」と、今回のテーマを投げかけた。
都心部では店で買う方が優位
自宅のパソコンで商品を注文して宅配してもらうのと、従来のように店に行き、買った商品を持ち帰るのと、どちらが環境配慮型といえるのか。
議論を始めるに当たって調査員Aは、「どのような前提で比較するべきか、条件設定が悩ましい」と思案する。例えば店に行く場合は、移動手段や移動距離をどう想定するのか、などだ。安井副学長は「確かに条件設定は何通りも考えられ、それによって優劣も変わりそうだ。既存のデータを探して、その妥当性を議論するだけでも意義はある」と、情報収集を命じた。
図1●全国のセブン-イレブンで書籍を受け取れる「セブンアンドワイ」のホームページ。駅や提携書店で受け取れるサイトもある。宅配に起因する負荷削減には効果的だ |
まず注目したのは、NECがホームページ上で示している「インターネットショッピングによる地球温暖化防止への貢献」データだ。これによると、従来の販売方法に比べ、ネット通販を利用するとCO2排出量を約40%削減できるという。
だが調査員Bは、「これは商品受け取りにコンビニを使った事例で、まだ一般的な買い方とは言えない。家庭に宅配される場合とは条件が異なる」と指摘。さらに「排出量の数値や内訳、前提条件が示されていないので、議論の対象になりにくい」と、ひとまず横に置く。
ここで「良さそうな論文を発見しました」と勇んで報告してきたのは、調査員Aだ。米国の環境専門誌『Journal of Industrial Ecology』に掲載された論文で、書籍を日本国内で購入した場合の比較検討がなされている(図1)。
特徴的なのは、日本の消費者の居住地を人口密度によって地方、郊外、都心の3地域に分け、それぞれのモデル地域で、ネット通販と書店利用による環境負荷をエネルギー消費量で比較している点だ(図2)。地方や郊外では、ネット通販と書店利用の環境負荷がほぼ拮抗し、都心では従来通りの書店利用に軍配が上がっている。
英語に精通する調査員Aは、論文を「書店までの移動に、都心では主に電車などの公共交通機関を使い、地方では主に自動車を使うなど、地域ごとの移動手段の割合も考慮されています。かなりち密に積み上げられた結果です」と要約してみせた。
安井副学長も「インターネット利用に伴う電力消費は、自宅でのパソコン使用時間を、15分間と考慮している。通販利用の有無に関係なく稼働しているサーバーの負荷を無視しているのも妥当な判断。有用なデータであることは間違いなさそうだ」と満足そうな表情を浮かべた。
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構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ |