不特定多数の消費者が作成するCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)に限らず、Webを利用したマーケティングにはさまざまなものがある。最新のCGMマーケティングの動向を示すと共に、過去の歴史を振り返る。

多様化するCGMマーケティング,低コストで「広く・深く」伝える

 一口にCGMを意識したマーケティングといってもその内容はさまざまだ。最近ではブロガーに、商品などの記事執筆の依頼をする「PRブログ」や一般消費者に動画のコマーシャルを作ってもらい、それをWebサイト上で公開する「CGCM(コンシューマ・ジェネレイテッドCM)」などが脚光を浴びている。

 インターネットが普及し始めた1995年ころからCGMマーケティングの手法があったわけではない。当時主流だったのは、バナー広告やメール・マガジン広告だった(図B)。これらは不特定多数に対し同じコンテンツを流すという点で、テレビや新聞といったマスメディアへの広告に近かった。

図B●CGM活用したサービスと、ネット広告の動向
図B●CGM活用したサービスと、ネット広告の動向
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 2000年を越えたころから、インターネットならではの新しいマーケティング手法が一般的になってくる。閲覧者の趣味・嗜好に合わせて情報を提供しようというものだ。検索ポータル大手の「Google」などが手掛ける検索連動型広告(リスティング広告)が代表例である。検索連動型公告は、入力した検索キーワードに関連する広告を、検索結果とともに表示するものだ。

 検索連動型広告と同様に、インターネットの特性を生かしたマーケティング手法が「アフィリエイト・プログラム」である。商品が売れた際には一定の手数料を支払う代わりに、自らの商品を販売するサイトへのリンクをブログなどに表示させる。

 CGMを利用しての販売チャネルを拡大するための仕組みともいえる。ECサイト大手のアマゾン・ドットコムなどが始めて利用が拡大した。

ブロガーに協力を依頼するPRブログ

 アフィリエイトが登場して以降、ブログを販促手段に利用できるという考えが広まった。それなら記事そのものを販促手段として使えばよいという考えで登場したのが、PRブログである。2005年前後から国内でサービス事業者が登場し始めている。

 PRブログでは、企業がサービス事業者を経由してブロガーを募集する。その内容に納得したブロガーが、条件に基づいてブログに記事を書く。

 PRブログのサービスを提供する事業者のタイプも一様ではない。サイバーバズは1日1000ページビュー以上の影響力のあるブロガーを対象にする()。「情報は影響力のあるブロガーからそうではないブロガーへ伝播すると考える」(宮崎聡社長)ためだ。1回のPRで募集する人数も数百人といったところである。

表●ネット上の口コミを使った事業を展開している主なベンチャー企業
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表●ネット上の口コミを使った事業を展開している主なベンチャー企業る

 エニグモは「心理的距離が遠い有名人よりも、会社の同僚や友人のブログに書いてあることのほうが影響がある」と考え、ページビューの少ないブロガーに数多く依頼する。1回のPRで1000人以上募集することが多い。

 ブロガーに対価を支払うかどうかも異なる。サイバーバズはブログ執筆への報酬はない。その代わり、発売前の新製品をいち早く使えるなどの特典を与える。エニグモなどは基本的に1回につき、数百円の対価を先着順で支払う。対価が発生するので、執筆を依頼する際に「海外旅行の体験談」といったテーマを指定することもある。ただし「個人の主観に関する部分は強制しない」(エニグモの藤井真人取締役)。

まだ発展途上のマーケティング

 企業の注目が高く、今はどのPRブログサービス事業者にも依頼が殺到している状態だ。業者ではなく、有名ブロガーには直接依頼することもあるほどだ。

 月間10万ページビューを超える7人の有名ブロガーが構成する「ONEDARI BOYS」(写真)には、毎週のように依頼が届くという。同団体は、企業から提供された製品やサービスについて評価記事を書く。「本当に気になるものしか評価しない方針なので多くの依頼を断っている状態」とONEDARI BOYSのいしたにまさき氏は話す。

写真●ネット上の口コミによるマーケティングの可能性を広げたとして、Web広告研究会が主催する「第5回 Webクリエーション・アウォード 」を受賞したONEDARI BOYS
写真●ネット上の口コミによるマーケティングの可能性を広げたとして、Web広告研究会が主催する「第5回 Webクリエーション・アウォード 」を受賞したONEDARI BOYS

 ただPRブログには「やらせではないか」との見方がつきまとう。やらせだとうわさになると、マーケティングした製品だけにとどまらず企業自体の信頼を下げることにもなりかねない。

 現在では、PRとやらせの境界は、米国の口コミ・マーケティングの協会「WOMMA(Word of Mouth Marketing Association)」の倫理規定が目安になっている。端的に言えば「対価を支払うことはあまり問題ではない。その代わりPRブログであることを明記しないものはダメということだ」(野村総研の山崎上級研究員)。

ブログ記事を応用して使う

 最近では、ネット上の書き込みを販促につなげる新しいサービスも出始めている。JALのちゅら通ブログのように、ブログに書かれているテキスト・データを集め、企業のコンテンツとしてWebサイトに表示するものだ。

 イベントを開催した際、その反応がどのようにネット上に書き込まれたかを、そのイベントのサイトに掲載することができる。カレンやバズマーケティングといった企業が今年に入って相次いでサービスを開始した。

 販促目的以外では、ネット上の評判を分析するサービスもある。ガーラやニフティ、きざしカンパニーといった企業が提供している。ネット上の評判分析は歴史が古く、ガーラなどは97年にサービスを開始している。

 当時はネット上の掲示板なども悪評が書かれていないかどうかを監視することが大きかった。それがブログの書き込みが急増してきたことで、今では世論の動向をつかむために利用されることが多くなった。