ブログなどに企業が望むコンテンツを書かせるのではなく、消費者が自分の思った通りに作成したコンテンツを集めるマーケティング手法も出てきた。ブログなどのテキストだけでなく動画を利用する企業も登場している。仮想空間もマーケティングへの活用が期待できる分野だである。

ドミノピザ、JAL,コンテンツ作りを消費者に任せる

 宅配ピザ大手のドミノピザを運営するヒガ・インダストリーズや日本航空(JAL)は、プロモーションのためのコンテンツ作り自体を消費者に任せた。今までのやり方では生まれてこなかった内容を期待してのことだ。

 ヒガ・インダストリーズは今年2月、コンテスト形式で自社のコマーシャル・フィルムを一般の消費者に作成してもらった。作成した動画は、消費者が自分で動画投稿サイトの「YouTube」などに掲載。審査発表もネット上で実施している。コンテストの運営はネット関連企業のエニグモに依頼した。

 ヒガ・インダストリーズの岩崎雅也マーケティング部スーパーバイザーは「プロではない人たちによって、これまでにない発想のコマーシャルができた。狙い通りだった」と語る。

 一度YouTubeに公開した動画は、多くのブログで紹介されて広がった。応募した全100作品を合計すると、6カ月で10万回再生された計算になる。「コンテストの効果だけではないだろうが、この間にWebでの会員登録数が20%程度増えた。今回のかかった総費用は数百万円程度。十分元が取れた」(岩崎スーパーバイザー)

 JALは毎年行っている、沖縄旅行のキャンペーン・サイト「ちゅら通ブログ」にブログ記事を利用しコンテンツの拡充に役立てた。日本航空インターナショナルの福島志幸 旅客営業本部国内営業部アシスタントマネジャーは「何が読まれるかを検討した結果、ブログにたどり着いた」と説明する。

 目的は、沖縄の観光情報を掲載することで、閲覧者に沖縄への興味を持たせることである。例年は、出版社に依頼して作成した観光スポット紹介の記事を公していた。しかし、一般的なガイドブックとの差を出しにくい上に、コンテンツをそれほど頻繁に更新していなかったため、複数回訪問する閲覧者は多くなかった。

 こうした問題点を補うため、ブログを利用したのである。ネット・ベンチャーのバズマーケティングに依頼し、沖縄に関する情報を発信している18人のブロガーの協力を得た。

 バズマーケティングが運営する記事配信システム「クチコミedita」に18人のブログのデータを取り込む。クチコミeditaにはブログのURLを登録しておく。ブログを更新すると、ほぼリアルタイムでクチコミeditaはそのデータを取り込む。JALの担当者が内容を確認した上で公開するかどうかを決定。すると「ちゅら通ブログ」に記事が投稿される(図1)。

図1●JALはキャンペーン・サイトにブロガーのコンテンツを利用することで注目度を高めた
図1●JALはキャンペーン・サイトにブロガーのコンテンツを利用することで注目度を高めた
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 「現地の人しか知らないような食堂の紹介など、企業が作るよりも生々しい情報を提供できた。ほぼ毎日更新するので“固定客”も付き、月間1万ページビューくらいで推移している。過去のサイトでは、ページビューは開設以降下がる一方だったので、投資効果は十分にあったと判断している」(福島アシスタントマネジャー)

資生堂,仮想空間で本音を聞きだす

 自社のWebサイトに作った会員組織との関係を強化して、新商品開発に顧客の声を反映させているのが資生堂だ。

 同社は、毎年1万人限定で運営している「インターネットモニター」と呼ぶ組織がある。インターネットモニターは、無償でWeb上からも登録できる105万人の「資生堂ネット会員」から選ぶ。

 インターネットモニターは試供品をもらえたり、モニター限定のイベントに参加できたりするほか、「ChatterBox」と呼ぶサイトを閲覧できる権限がある。普段は自分の分身である「アバター」を操作し、自分の部屋でアバターにお化粧を施したり、友達の部屋に出かけてチャットしたりする(図A)。

図A●資生堂はネット会員に仮想空間を提供し、アバターを通じて顧客の声を吸い上げる
図A●資生堂はネット会員に仮想空間を提供し、アバターを通じて顧客の声を吸い上げる
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 資生堂はこの仕組みを使って、顧客に簡易なグループ・インタビューを実施する。メールで参加を呼びかけて5~7人に集まってもらい、アバターに扮した資生堂の社員が質問する。画面上は1人が質問しているが、実際は複数人の社員が異なる立場から質問している。チャットなので、すべての発言が記録できる。

 調査会社などを介さないで質問できるうえに、1万人の中から参加できる人だけを呼ぶので、実際のグループ・インタビューに比べて準備期間が短くて済む。しかも「実際に対面で話していないために本音を引き出しやすい上に、商品開発に携われることに満足してもらえる」(中村均お客様センター参事)という。

 謝礼が無料であることもメリットだ。中村参事は「参加者には熊のぬいぐるみや扇風機など、ChatterBox内の自分の部屋に飾れるアイテムを渡している。自分が特別な存在になれるため、喜んでもらえる」という。