ヒット商品の環境対応度を,国際連合大学の安井至副学長が率いるエコミシュラン調査員がチェックする「安井至のエコミシュラン」。第1回は,多機能化がますます進んでいる携帯電話を取り上げる。 |
ワンセグテレビや電子マネーなど多彩な機能が携帯電話に搭載され始めた。左2点はNTTドコモ「F904i」(富士通製),右はソフトバンクモバイル・X08HT(台湾HTC製) | 国内では珍しい「SIMロックフリー」(本文参照)のノキアE61日本版が2006年末登場。北米や欧州の通信規格「GSM」に対応 |
調査員Aが,新調したばかりの携帯電話を自慢し始めた。「音楽や動画の再生はもちろん,『ワンセグ』でテレビも見られるし,ワープロや表計算のソフトも使える。欲しかった機能がすべてそろっている」
負けじと,調査員Bも愛機を取り出す。「“おサイフケータイ”は買い物に便利。指紋認証が付いているので紛失しても安心」と満足そうだ。
「携帯電話はあまり使わない」という国際連合大学の安井至副学長も,近頃の多機能化には感心しきりだ。最近ますます多機能になった携帯電話を巡り議論が始まった。
新機種を使う調査員Aが驚くのは,多機能なのに電池の持ちがいいこと。NTTドコモの最新カタログによると,携帯電話向け地上デジタル放送「ワンセグ」を使ったテレビの連続視聴時間は240~320分。「新幹線で映画を鑑賞できる。次の出張が楽しみだ」と,気持ちをはやらせる。
多機能化に合わせるようにバッテリーの大容量化が進んだ。5年前なら500mAh程度が主流だったが,最近では800mAhを超える電池を搭載する機種も登場した。安井副学長は,「小さくした上に容量を増やしたのだから,大した技術だ」と一目置く。
LCCO2の大半は製造から
「電池容量が増えたなら,充電時の消費電力も増えたのでは」。調査員Cが素朴な疑問を投げかけながら,ライフサイクルCO2を調べだした。
安井副学長は「バッテリー充電に伴う電力の消費は微々たるもの。メーカーが公開するLCAデータを参照してみよう」と情報収集を始めた。
シャープが2002年に公開した環境報告書に掲載するデータによると,1台当たりのCO2排出量は57.9kg。その95.5%を,「部品・部材」の製造によるCO2排出が占めている(図1)。一方,充電によるCO2排出を示す「使用」はわずか1%だ。京セラの公開データもほぼ同じで,使用時の環境負荷は全体の1.1%だ。
図1●携帯電話のライフサイクルのCO2排出量 出所/シャープ ライフサイクル全体のCO2 排出量は57.9kg |
しかし,いずれもカメラ付きが“売り”になった,ひと昔前の機種のデータだ。その後の多機能化でどの程度,環境負荷が増えたかが問題だ。
調査員Aは,「携帯電話は電子部品の固まり。ワンセグチューナー用のチップなど新たに加わる電子部品は数々あるが,ライフサイクル全体から見れば,その製造によるCO2排出は微増にとどまる」との見方を示す。
安井副学長も,様々な電子部品の製造によるCO2排出量を調査した上で,調査員Aの意見に同調する。「多機能化によるCO2増加分は,せいぜい1~2割増」と読み解く。「ポータブル音楽プレイヤーなどの機能を携帯電話1台で済ませられるなら,多機能化によるメリットは大きいかもしれない。機能当たりの環境負荷を考えれば,携帯電話は優秀な部類に入る」と,好意的な見方を示した。
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構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ |