メールのやりとりでは,送信と受信で別のプロトコルが使われている。送信に使われるのはSMTP,受信に使われるのはPOP3である(図1-1)。また,メール・サーバー間でメールを転送するときは,ドメイン名からIPアドレスを調べるDNS(domain name system)のしくみを使う。

図1-1●2種類のプロトコルを使ってメールを送受信する
図1-1●2種類のプロトコルを使ってメールを送受信する
メールを送信し,相手が受信するまでには2種類のプロトコルを使う。一般的には,メーラーからメール・サーバーへの転送,およびメール・サーバー間での転送にはSMTPを使い,メール・サーバーからメールを取り出すときにはPOP3を使う。 [画像のクリックで拡大表示]

 このように,さまざまなしくみを利用してメールはあて先まで届けられる。Lesson1では,メール配信の全体像に迫ろう。

サーバー間の転送にもSMTPを使う

 はじめに,メールを送受信するのに必要となる,メール・サーバーとパソコン側のメール・ソフト(メーラー)の役割を確認しておこう。

 メール・サーバーはメールを転送したり,届いたメールを保存しておくサーバー・ソフト。人間の世界でいえば,郵便局に相当する。メーラーはメールを読み書きするためのソフトウエア。メール・クライアントとも呼ばれる。手紙を書いたり受け取った手紙を管理したりするほか,書いた手紙を郵便局のポストに投函したり,郵便局から手紙を取ってくる役割を担う。

 では,実際にメールがどうやって相手に届くのかを追いかけていこう。まずメールを書いたら,メーラーがそのメールをメール・サーバーに送る。メーラーからメールを受け取ったメール・サーバーは,メールのあて先アドレスを見て,そのアドレスあてのメールを管理するメール・サーバーをネットワーク上から見つけ出し,メールを転送する。

 この二つの場面で使われるプロトコルがSMTPだ。SMTPはメールを受け取ると,そこに書かれたあて先に向けて次から次へメールを受け渡していく。

 あて先のメール・サーバーにメールが届くと,メール・アドレスごとに用意しているメール・ボックスにメールを保存する。これは郵便局に設置されている私書箱にあたる。

 つまり,郵便局は受取人にまでメールを転送せず,受取人あての私書箱にメールを入れておく。受取人は好きなときに,メーラーを使って私書箱までメールをチェックしに行き,新しく届いたメールを受け取るわけだ。このメールを受信する場面で使われているプロトコルがPOP3である。

DNSであて先サーバーの場所を知る

 メールのやりとりには,SMTPとPOP3のほかに,もう一つ重要なしくみが働いている。それは,ドメイン名からIPアドレスを割り出すDNSだ。

 メール・サーバー間でメールを転送する際は,あて先に書かれたメール・アドレスのメールを管理するメール・サーバーのIPアドレスを知る必要がある。

 このときに利用するのがDNSだ。DNSは,複数のDNSサーバーが連携して働くシステムである。各DNSサーバーには,ドメイン名とIPアドレスの対応だけでなく,ドメインとそのドメインのメールを管理するメール・サーバーの対応も情報として保存されている。メーラーから送信メールを預かったメール・サーバーは,DNSのしくみを使って,あて先メール・アドレスのドメイン名(@の右側の文字列)から,そのドメインのメールを管理するメール・サーバーのIPアドレスを調べるのである

 IPアドレスがわかればメールを転送できる。こうして,メールはあて先メール・サーバーに届き,あて先アドレスのメール・ボックスに配達される。

POP3で好きなときにメールを受信

 最後に,送信にはSMTP,受信にはPOP3とプロコトルを使い分けている理由を見ていこう。SMTPとPOP3を使い分けるのは,コンピュータの利用形態に適したプロトコルを使うためだ。

 SMTPは受け取ったメールを次々にあて先に転送していくプロトコルなので,コンピュータは常時起動していなければならない。ところが,多くの人は常時稼働するメール・サーバーを自分で立てているわけではない。一般的には,家庭や企業内でクライアント・パソコンを使っている。クライアント・パソコンは常時起動しているとは限らないので,一旦メール・サーバーにメールを蓄積しておき,好きなときにメールを受信できるPOP3のようなプロトコルが適しているのである図1-2)。

図1-2●好きなときにメールを読み出すためにPOP3を使う
図1-2●好きなときにメールを読み出すためにPOP3を使う
SMTPを使う場合,常にコンピュータを起動しておかなければならない。ユーザーがメールを受信するコンピュータは常に起動しているとは限らないため,好きなときにメールを受信できるPOP3を使う。 [画像のクリックで拡大表示]