2007年も残すところ,あと1カ月半。日経BP社のIT系雑誌の名物編集長3人が,2007年の総括と2008年への展望を語った。第1回は,ITと経営の関わりを議論した。

  ・司会:浅見 直樹(ITpro発行人,写真右から2番目)
  ・宮嵜 清志(日経ソリューションビジネス発行人兼編集長,写真左)
  ・桔梗原 富夫(日経コンピュータ編集長,写真左から2番目)
  ・林 哲史(日経コミュニケーション編集長,写真右)


司会の浅見発行人:日本でIT化といえば,自動化や省力化を意味してきました。誰にでもできる単純作業をコンピュータ業務に置きかえる、それがこれまでのITの歴史です。ホワイトカラー層のクリエイティビティーを高める、いわば生産性の向上や新規市場の創出といった方向にITを活用しようという機運がまだまだ高まっていないように感じませんか?

日経コミュニケーションの林編集長:IT投資のほとんどが,運用やメンテナンス費に回っているのが問題です。システムは必要悪だという見方も根強いし,パソコンを買うことがそのままIT投資だと考える経営者も少なからずいるようです。

日経コンピュータの桔梗原編集長:IT投資を「攻め」と「守り」のどちらに使うのかを明確にして考えるべきでしょう。日経コンピュータ主催の「IT Japan Award 2007」で経済産業大臣賞(グランプリ)に輝いた「セブン-イレブン・ジャパン」の第6次システムでは,各店舗における発注作業の精度向上を実現しています。これは「攻め」の好例です。経験の浅いアルバイトの店員でも、最適な発注ができ、売れ筋の欠品や廃棄ロスを極力減らし、利益増に結び付けています。さらに、電子マネーのnanacoも春から導入。利便性を高めるとともに、ポイントなどインセンティブをつけることによって優良顧客を囲い込んでいます。

日経ソリューションビジネスの宮嵜編集長:セブン-イレブンのシステムの最大の特徴は、例えば「これから天気が崩れそうだから,補充発注の際に傘を多めに追加しておこう」というようなナレッジを,システムというクローズドループの中に見事に埋め込んだことですね。しかもシステムの当初からそういう狙いを持っていたわけで、極めて珍しいケースでしょう。パッケージ製品などを購入しても,それを自社のナレッジと融合させるまでに至っていない企業が大半ですね。

:ベンダーも,そこまでの活用イメージを描けていないのが現実かも知れません。実際のところ,具体的な活用方法はユーザーごとに異なるでしょうし,ベンダーがそれぞれのユーザーの業態をしっかり理解していないと,「攻めの投資」を引き出せる魅力的な提案は難しいでしょう。簡単なことではないでしょうけど,ベンダーにはこれまで以上にユーザー目線のシステム提案力が求められているわけです。

宮嵜:セブン-イレブン・ジャパンがあそこまでできた背景に,トップであるCEOの鈴木敏文氏が,「小売の基本は発注にある」と全社に号令をかけてきた点は見逃せません。

桔梗原:経営とITを融合させるには,まずはITに対するトップの理解が必要ということですね。日経コンピュータで以前、鈴木さんにインタビューしたときに、「私はIT部門に対し、会社がどういう方向に動いていこうとしているのか、どうしたら仕事がやりやすくなるか、そういうことを考えてシステムを作れと、いつも言っている」とおっしゃっていたことが印象的でした。

宮嵜:大阪のある企業のIT部門長は経営部門長も兼務しており、部下のシステム部員に対して「君が関わっているシステムが、ウチの会社の財務諸表のどこにどう影響を与えるか」を常に問いかけているそうです。例えばペーパーレス化するためにIT投資した場合,P/LやB/S、フリーキャッシュフローにどう影響が及び,それが戦略的投資と判断できるかどうかを定量的に進めていたのには驚かされました。

浅見:日本では、他のIT先進国と比べて、ITに対する経営者層の理解があまりに乏しい。経営トップ自身が先頭に立って,IT部門こそ会社を変革する重要な部門と位置づけ,IT部門で働く人材のキャリアパスを作らないといけないと思います。

桔梗原:日経コンピュータが特集で取り上げた松下電器産業は、中村邦夫会長が社長時代に「IT革新なくして経営革新なし」をスローガンに掲げ、ITを活用しながら構造改革を進めてV字回復を果たしました。社長が本部長を務める「IT革新本部」を発足。その下で社内分社した総勢1000人に及ぶIT部門が経営者層と一体になって、業務改革を推進していったのです。松下の例のように、経営者層がITの重要性を理解し、トップ自らが陣頭指揮することが大切ではないでしょうか。そのような組織であれば、自ずとIT部門の社内でのステータスも上がると思います。


目次
IT部門こそ会社を変革する重要な部門であるべき 
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価格破壊に打ち勝つには