Web制作会社が,企業コンサルテーション的な仕事をすることが徐々に目立ってきています。商品カタログ的なWebサイトの構築を担う役とされてきた,Web制作会社が,何故企業の広報戦略や戦略立案にまで関わるようになってきているのかを,今回は見てみたいと思います。

単一ページは,共通フォーマットに従う

 先ずは,ページ制作を依頼されたところから見てみます。1ページものでない限り,そのページに載せるべき情報だけをみて,ページ制作を始めるプロはまず居ません。「見た目」的な統一感や,共通の操作性を実装するために,共通フォーマットというものを作ることから,通常は始めます。グローバルナビゲーションやローカルメニューなど,幾つかのエリア設計をして共通部分と個別に変化する部分とを切り分けます。

単一ページは,共通フォーマットに従う

 そうしてできあがったエリア設計という,ある意味「制限」とも呼べる「枠」の中で,デザインを進めます。デザインは,その意味で幾重もの制限の積み重ねとも言えます。あるいは重力のような,皆が共通に受け入れなければならない「法則」作りをしているとも呼べます。そうしたルールや法則が,ユーザーにとって直感的かどうかが,ユーザビリティと呼ばれているものの本質です。ボタン等の「(UI)部品」だけを見て,Webサイトのユーザビリティが評価できない理由はここにあり,「独りよがりのデザイン」は使い手に「違和感」を持たれるルールだと言えます。

共通フォーマットは,サイト構造に従う

 では,そうしたルールはどうやって作られるのでしょうか。それはWebサイト全体に載せるべき全情報を精査してみないと準備すらできません。料理をするのに,どんな材料があるかを知らないで,調理を始める人は居ないでしょう。使うべき素材を並べ,どこでどう使うかを考え,それを効率よく組み立てて進めていくのが,プロの調理人です。Webサイトも基本は同じです。そのサイトで伝えるべき情報をすべて洗い出し,過不足がないかを吟味し,順番を考え,様々なアクセス経路を考え,「あるべき姿」を想定します。

共通フォーマットは,サイト構造に従う

 情報整理の部分(フェーズ)を,「IA (Information Architecture)」と呼び,そこの良し悪しが,そのWebサイトの品質に深く関わります。ユーザーがWebサイトで迷ってしまう根幹は,そのIAのフェーズが正しく機能しなかったことが第一の理由です。迷わないように情報設計をできなかったから,ユーザーが迷うのです。逆に言えば,迷うように作ったから迷うのです。

 また,設計中や開発中にコンテンツが増減した場合も,結果的に迷わせる原因になります。先ほどの例で言えば,突然「このニンジンを使ってくれ」と調理の最中に言われるようなものだからです。ニンジンなしで出来上がりを想定していたのに,突然想定外の味が混入する訳です。全体の調和が壊されるのは道理です。結果として,違和感のある味の料理ができあがり,違和感のある迷いやすいWebサイトができあがります。

 それは,作り上げてきた「ルール」が破綻しているとも言えます。開発現場では,完成間際で色の変更指示が出たり,これも追加してほしい,これは出さないでほしい,様々な仕様変更が日常的に起こります。Webサイトという形のないものだから,そのように簡単に路線変更がなされる訳ですが,そうした場合は「橋」を作っていると思えばよいのかもしれません。対岸に一直線に向かって最適な構造計算を行って作り上げてきた橋に,大きな仕様変更を投げかければどうなるのか。それは目的地に辿り着かない「橋」になってしまうことを意味しています。最初の設計図が破綻してしまえば,そうなってしまうのです。

 ですので,最初のプランニングフェーズが重要になります。制作に関わるすべての人が共通意識を持ち,誰もが違和感のない「ルール」を一緒に作り上げる必要があります。そして,B2C型になればなるほど,通常のアプリケーション開発にないものの重要度が増してきます。それは「表現」です。データ処理という理論的な世界では割り切れない,誰もが感じるけれど,誰にも共通のものを見つけにくいものです。Webサイト開発は,そうした「表現」の部分でも,ルールを作っていきます。そのサイト内のどこに行っても,違和感のない「表現」というルールを,です。