企業にさらなる経営のスピードアップが求められている中,あなたの会社でもさまざまなチームが,同時並行的に活発に活動していることだろう。だが,あなたは,自分が属する組織・チームが「十分成果を上げている」と自信を持って言えるだろうか?

 この連載では,「いつも反対意見を言うメンバーをどう方向付けしたらいいのか?」「会議で方向付けができず,いつも結論がのびのびになってしまう」など,初めてリーダーになったエンジニアがチーム活動の中で普段悩んでいることや苦労していることを即座に解決できる,さまざまなノウハウや成功の秘訣を伝授する。

 第1回目の今回は,「チームビルディングとは?」をテーマとし,チームビルディングの前提条件について解説しよう。

チームやチームビルディングとは何か?

 あなたの周りにはどんなチームがあるだろうか?あなたが会社で所属する組織や,スポーツのチーム,プロジェクトチームなど,いろいろありそうだ。

 本連載では,

組織やプロジェクト体制など,ある目的達成のために集めてきた,あるいは集まってきた人達の集合

を「チーム」と定義する。従って,野球やサッカーの選手の集まり,親睦を深めるための社員旅行や町内のお祭りなどのイベントを企画・運営する役員の集まりもチームである。

 筆者の自宅マンションには,理事会というマンションを管理する組織があり,1年ごとに持ち回りで担当する。今年は大規模修繕の年にあたり,通常の理事会とは別に修繕委員会という組織もあるが,これもチームの一つだ。

 チームによって事情は異なるが,通常チームメンバーは,様々な組織からいろいろな経験を持った人たちが集まっていることが多い。違う会社の人間も参加するプロジェクトチームならなおさらだ。従って,メンバーそれぞれが持っている「常識」も,話す「用語」もさまざまだったりする。

 本連載では,そういった様々なメンバーが

個人個人の持ち味を活かし,思いを一つにして,ある目的に向かって効率よく確実に進んでいける組織作り

を「チームビルディング」と定義する。

 チームの中で,メンバーがお互いに刺激し合ったり助け合ったりすることでメンバーの知識や経験は蓄積され,チームとして強くなり,チームとしての成果つまり相乗効果が発揮できる。このように,チームのパワーがメンバー個々のパワーの総和以上になるように導く考え方や手法が,チームビルディングである。

“異質のメンバー”が集まったチームのほうがパワーを発揮できる

 では,チームのパワーがメンバー個々のパワーの総和以上となるためには,どんなチームを作る必要があるのだろうか。

 例えば,“同質のメンバー”が集まったチームと,“異質のメンバー”が集まったチームを考えてみよう。“同質のメンバー”が集まったチームのほうが,一見,大きな意見の対立もなさそうで,和気あいあいとしたファミリー的で良いチームのように思える。しかし,こうしたチームは,同様の視点からの発想が多くなりがちで,何か議論に活気が出ないと感じたことはないだろうか。

 筆者は以前,ある製造企業に勤めていた。そこで所属していたチーム(組織)は,なぜか似たタイプのメンバーが9割を占めていた。その組織は,顧客と自社の製造現場の両方に接点があったので,かなりストレスがかかっていた。このためストレスに強いタイプが集まった(集められた)のかもしれないが,今思うと非常に不思議な組織だった。

 工場の生産管理部門であるその組織は,入社以来ずっとそこで働いてきたメンバーばかりで,数年間仕事の内容そのものに変化がないうえに社内外からの大きなストレスのため,メンバーの向上心は消失気味でキーとなるメンバーは皆,職場のローテーションを希望していた。メンバー個々人は,自分の意見をきちんと持っているうえ,意見をはっきりと示す“熱くなりがちな”タイプがほとんどだった。しかし会議では,あきらめムードの感想ばかりで,前向きな意見があまり出てこなかった。

 ある時そこに,出身母体が全く違うメンバーが1人参画した。彼は,その組織に来る前は,社内外で改善活動を推進してきた経験があり,改善活動を通じて製造現場と固い信頼関係を築いていた。このため,ほかのメンバーは製造現場との調整に起因するストレスが,かなり取り除かれることとなった。「製造現場に対する調整は彼に任せおけばいい」と安心したからだ。その結果,意見があってもなかなか言おうとしなかったメンバーが,少しずつ会議の場で自分の意見を表現し始めた。さらに,今まで影に隠れていた“冷静で温厚な”メンバーが,放っておくと感情的になりそうな議論をまとめ出した。熱くなりがちな9割のメンバーの中に,冷静で温厚なメンバーが1割存在したことにより,チームがうまく回り始めたのだ。