いつでもどこでもを実現するうえで,携帯電話は外せない端末である。第3世代携帯電話(3G)や無線LANを内蔵する端末からビデオ会議に参加できる環境が整ってきた。

 タンバーグが販売する3Gゲートウエイ製品「TANDBERG 3G Gateway」は,H.323やSIP対応のビデオ会議端末と,W-CDMA方式の3G携帯電話の接続を可能にする(図5)。携帯電話向けのビデオ会議用プロトコル「H.324M」と,ビデオ会議が使うH.323やSIPをリアルタイムで相互変換。映像ではMPEG-4とH.263を相互変換する。W-CDMA側の通信は回線交換方式のため,通話料が多少気になるが,急ぎで会議に参加する必要が生じたときなどに有用となる。

図5●タンバーグはW-CDMA方式の第3世代携帯電話(3G)との間でビデオ会議を実現する3Gゲートウエイを提供
図5●タンバーグはW-CDMA方式の第3世代携帯電話(3G)との間でビデオ会議を実現する3Gゲートウエイを提供
[画像のクリックで拡大表示]

 さらにタンバーグは携帯電話を活用するための製品を9月に発売した。不在時の転送先をユーザーが設定できる「FindMe」という機能を持つサーバー製品「TANDBERG Video Communication Server」である。外出中などに会社のビデオ会議端末にかかってきた着信を,W-CDMA携帯電話へ自動転送するといった使い方ができる。

 富士通のWeb会議システム「JoinMeeting」もモバイル対応を進めている。Windows Mobile用のJoinMeetingクライアントを用意し,ウィルコムの「W-ZERO3」やNTTドコモの「F1100」といった無線LAN内蔵のスマートフォンで動作させる。

 同クライアントは映像の送受信だけではなく,チャット機能も備える。映像の送受信はパケット通信なので,無線LANを経由すれば通信料を無料もしくはかなりの低額にできる。

 これ以外にも,ブイキューブのASP型ビデオ会議サービス「nice to meet you」などで,3Gゲートウエイの機能がオプションで提供されている。

Exchangeなどのグループウエアと連携

 パソコン用有償ソフト/サービスは,他システムとの連携が容易という特徴がある。特にグループウエアと連携すると,参加者のスケジュールの確認や会議室の予約といった,これまでのビデオ会議にあった“開催までの手間”を軽減できる。

 マイクロソフトのOCSやOffice Live Meetingは同社のグループウエア「Microsoft Exchange」と連携する(写真3)。Exchangeのクライアントである「Outlook」を使ってビデオ会議の招待メールの送信や,開催スケジュールの登録などができる。こうした処理を普段使っているグループウエアから操作できれば,多くのユーザーが使いこなせるようになるだろう。シスコシステムズが提供するWeb会議システム「MeetingPlace」はExchangeと米IBMの「Lotus Notes/Domino」との連携機能を備えている。

写真3●ビデオ会議がグループウエアと連携
写真3●ビデオ会議がグループウエアと連携
「Outlook」から会議の予約(左上)や招待メールの送信(右下)が可能。

 連携できるのはグループウエアだけではない。富士通はビデオ会議が,Webベースのコミュニティ・システム「Wiki」と連携するシステムを開発し,特許を出願した。

 システムの詳細は明らかにされていないが,「Wikiを使ってビデオ会議システムにSNS的な機能を取り入れた」(富士通ネットワークサービス事業本部FENICSシステム統括部ASサービス部の志賀浩一プロジェクト課長)。具体的には,自分の意見をビデオに撮影してそのシステムに投稿したり,投稿されているビデオに対してビデオで返答できる機能を提供するという。ビデオのサムネイル画像をクリックして,投稿者に連絡を取るといった機能もある。「YouTube」などの動画投稿サイトの企業向け版を目指しているようだ。

録画機能が時間を超えた場の共有を実現

 ビデオ会議はコミュニケーションから地理的な制約を取り払うシステムである。今後はさらに,「時間軸のズレ」をどのように取り払えるかがテーマになりそうだ。

 実は,多くのビデオ会議システムは既に録画機能を備えている。パソコン用有償ソフト/サービスのシステムだけではなく,据え置き型のシステムでも録画サーバーといった周辺商品が存在する。映像を録画するだけではなく,画面に表示した資料の画像なども一緒に記録する製品もある。会議に参加できなくても,録画したビデオ会議を社内LANやインターネット経由で後から視聴できる。

 さらに録画機能に新たな要素を加えたシステムが登場しそうだ。例えば富士通のJoinMeetingは2007年内に,録画されたビデオ会議に対して,「後からチャットによりコメントを書き込める機能を追加する」(志賀プロジェクト課長)。会議に出席できなかった人が,コメントの記述だけでも,“疑似的に”会議に参加できるようにするものだ。

 この機能が発展し,映像でも録画ファイルに対してコメントできるようになれば,会議への“疑似参加度”が大幅に増す。時間がずれていても,映像に情報を追加することで,多くの人が一つの議題に対して同時にコメントを追加しているような感覚になるからだ(図6)。こうなると会議への参加時間が異なっても場の共有ができ,従来の枠を超えた新しいビジュアル・コミュニケーションが生まれて来ると予測できる。

図6●時間軸がずれても「場の共有」ができる未来のビデオ会議システム像
図6●時間軸がずれても「場の共有」ができる未来のビデオ会議システム像
[画像のクリックで拡大表示]

古い機器で発生する相互接続性の問題

 異なるオフィスを接続するビデオ会議で,大きな問題の一つは相互接続性である。必ずしも同じメーカーの機器同士が使われるとは限らないからだ。ビデオ会議システムで標準的に使われているプロトコルは「H.323」である。基本的な呼制御から遠隔カメラの操作といった応用機能まで幅広く定義している。

 H.323対応の機器同士なら,理屈の上ではメーカーが異なる機種でも接続できるはず。しかし現実には実装上の違いから,接続できない,接続できても正しく動かないなどの問題が発生する可能性がある。

 メーカーに聞くと,新しい機種同士であればメーカーが異なっても接続できる可能性が高い。ところが古い機種では「H.323の初期バージョンが使われている機種で,片方にしか映像が映らないといった現象がたまに起こる」(ポリコム)という。

 H.323の歴史は古く,ITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)で最初に標準化されたのは1996年のこと。それ以来,細かなバージョン・アップを繰り返してきたため,問題が生じているのだ。

 ビデオ会議ではH.323以外にも,資料共有などのためのH.239をはじめとして多くのプロトコルを使う。メーカー各社はこれら各プロトコルの相互接続性も検証する必要がある。膨大な検証作業を効率化するために,国内には「HATS推進会議」,海外には「IMTC」という業界団体がある。メーカー各社はこの場に機器を持ち寄り,相互接続性を検証している。

 ポリコムは自社でも大規模な検証施設を持つ(写真A)。2006年11月に開設した東京接続検証センターでは,相互接続性に加え拡張性の検証も実施する。一つのシステムにつながる機器の台数が増えたときに,正常に動作するかどうかを確かめるものだ。同センターは約350台の機器を備え,製品の検証を行っている。

写真A●ポリコムが東京都内に開設した「東京接続検証センター」
写真A●ポリコムが東京都内に開設した「東京接続検証センター」