Q 過去,何人かの女性と付き合いましたが,交際期間が1年と続きません。いずれも,なんとなくうまくいかなくなって別れてしまいました。自分なりに分析すると,相手の細かな欠点が目についてしまう感じです。このままずっと結婚できないのではないかと心配です。 (35歳,男,SE)

 あなたは人当たりが良く,いわゆる女性にもてるタイプなのでしょうね。「この人はいい人だなぁ」と思ったら,それほど躊躇せずに付き合いを申し込むだけの社交性もあるように思います。

 そういった意味では問題は少ないと思われますが,本気で好きになっていない場合は,肉体的にも精神的にも相手に対する関心が無くなり,次第に相手の欠点が目につくようになるものです。しかし誰にも,いい点と欠点があるもの。そのいい点を見るようにすることが大切です。

 「それができない」という場合,まず自分自身をより深く知ることが必要でしょう。筆者の相談室を訪れた男性の中に,交際中の女性と別れられないうちに違う女性との交際を始めてしまい,複数のあいまいな男女関係を維持してしまう人がいました。話を聞いてみると,彼の両親は不仲で,母親は父親から自立するために仕事に精を出していました。彼は,母親にまとわりつきたい気持ちを押し殺して,「何でも1人でやる手がかからない子」になるしかありませんでした。母親に甘えた覚えがほとんどなかったそうです。

 心理学者のユングは,男性が心の中に潜在的に求めている女性のイメージを「アニマ」と呼び,逆に女性が潜在的に求めている男性のイメージを「アニムス」と呼びました。この考え方に則れば,相談室を訪れた男性は,幼い頃に欠落している「いつもそばにいて励まし慰めてくれる母親」のイメージを,出会う女性の中に求めていたと思われます。1人になるのが怖くて,女性との関係を整理したり断つことができなかったのです。

 このように,男女間の関係には自分のアニマ像(またはアニムス像)が色濃く反映するというのが,心理学の定説です。当然,どんな子供時代を過ごしたのか,あるいは両親はどんな人だったのかなどによって,アニマ像(またはアニムス像)は人それぞれ。そこでほかの人と比べるのではなく,自分がどんな人間かを理解し直すことが大切なのです。

 アニマ像が分かれば,自分のこれまでの女性への接し方や別れ方の傾向が理解しやすくなります。自分自身を振り返り,しっかりと見つめていくと,心理的防衛の姿としての対人行動や女性に求めているものが見えてくるものです。この自己理解が進むと,女性との付き合い方もきっと変わってくると思います。

 男性の中には,自分の中にあるアニマ像だけを無意識に求め続け,現実に付き合っている相手の女性を,あるがままに理解しようとしない人もいます。これでは,現実の男女関係がうまくいくはずがありません。今ここにいる女性としっかりコミュニケーションしてみることです。

 いずれにしても,「自分は人と違いすぎるのではないか」,「女性とうまくつきあえないのは,自分の考え方がおかしいのではないか」などと,1人で悩むのはあまり好ましいとはいえません。自分で自分を分析するのが難しければ,専門のカウンセリングを受けてみることもお勧めします。

武藤清栄 東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。関東心理相談員会会長。日本精神保健社会学会副会長。著書に「雑談力」,「号泣力」(いずれも明日香出版社),「本音力」(ロゼッタストーン)など