Bruce Schneier Counterpane Internet Security
「CRYPTO-GRAM October 15, 2007」より

 英国では2007年10月に施行された新しい法律によって,警察から求められた復号用鍵の提出を拒否することが犯罪行為とみなされるようになった。

 筆者には,この法律の要点がハッキリとはわからないが,企業には動揺が広がるだろう。警察から暗号鍵の提出と事業上のやり取りをすべて開示するよう要求される可能性があるからだ。

以下は,ArsTechnicaに掲載された記事の引用である。

 「ケンブリッジ大学のセキュリティ専門家であるRichard Clayton氏は2006年5月,『この種の法律は,企業が暗号関連業務を英国捜査当局の手の届かない場所へ移すだけの効果しかもたらさず,英国経済に悪影響を及ぼす可能性がある』と話した。『問題は,法によって関係者が復号を強いられるのではなく,暗号鍵を押収される点にある。暗号鍵を押収できる権力に対し,大企業は狼狽している』(Clayton氏)」

 「さらにClayton氏は『国際的な銀行は,暗号鍵が合法的な警察活動や買収された警察署長の命令で押収されかねないなら,英国への“マスター・キー”持ち込みに慎重になるだろう。こうした発想が,極めて大きな抵抗感を生む』と述べた。『しかるべき書類を提出すれば,暗号鍵は押収できる。その結果,国際的な銀行は本社をスイスのチューリッヒに置く』(Clayton氏)」

 ただし,復号されたデータによって有罪を証明され得るとして,実際に犯した罪で重い刑罰を言い渡される可能性があるとしたら,復号鍵の提供を拒絶して最大5年の刑罰を受けるだけで済ませた方がマシかもしれない。

 この件は,過去15年間にわたって繰り広げられてきた「暗号を巡る戦争」の一部。新たな“小競り合い”が起きたに過ぎない(米国のクリントン政権が提案した「クリッパー・チップ」を覚えているだろうか。関連記事:米運輸保安局“お墨付き”の錠)。英国の警察は,以前から「暗号は法律や規則を阻む乗り越えられない壁である」と主張していた。

 「英国内務省は,同法律の目的はテロリストや児童性愛者,常習犯を捕まえることであり,政府が同法で取り締まる対象はいずれも暗号で活動を隠ぺいすることに長けている,という主張を曲げなかった」(ArsTechnicaの掲載記事)

 1993年に米連邦捜査局(FBI)の長官だったLouis Freeh氏も,同様の発言をした。筆者が「情報黙示録の四騎士」と呼んだテロリスト,麻薬密売人,誘拐犯,児童ポルノ制作者は,ありとあらゆる警察権の強化を正当化するために利用されてきた。

http://arstechnica.com/news.ars/post/...
http://ct.techrepublic.com.com/clicks?...
http://www.theregister.co.uk/2007/10/03/...

Copyright (c) 2007 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事 「UK Police Can Now Demand Encryption Keys」
「CRYPTO-GRAM October 15, 2007」
「CRYPTO-GRAM October 15, 2007」日本語訳ページ
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,2006年10月に英BTの傘下に入りました。国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。