Q 睡眠障害,疲労感,仕事に集中できない,窓から飛び降りたくなる衝動,といった症状が5年前から続いています。心療内科を受診して薬物治療を受けていますが,症状が取り切れません。遅刻,欠勤はないものの昨年の業務査定は最低ランクでした。退職した方がいいでしょうか。 (40歳,男,SE)

 今回の相談者は,明らかにうつ病が「遷延化せんえんか」している状態であると考えられます。

 うつ病は,抗うつ薬の服用など医師による適切な治療を受ければ,早ければ3カ月,少し時間がかかる場合でも6カ月あれば回復することが多いのです。しかし,中には回復に1年や2年,あるいはもっと時間がかかる場合があります。こうした状態を「うつ病の遷延化」と言います。「遷延うつ病」と呼ぶこともあります。

 うつ病が遷延化するメカニズムは,実はまだよく分かっていません。しかし,うつ病がなかなか回復しない場合には,
(1)抗うつ薬がきちんと効いているかどうか
(2)生きていく上で必要な「命のエネルギー」を消耗してしまうような要因がないかどうか
(3)ものの見方,考え方,行動様式に他人とのトラブルを引き起こしやすい要因がないかどうか
を,一度検討してみることが必要になります。

 今回の相談者の場合は,うつ病の症状が完全に直り切っていない状態で仕事を続けているために,仕事の効率が悪くなり,結果が思うように出せない。そのことが会社からの評価を下げることにつながり,それが結果的に「命のエネルギーを消耗させる」という悪循環を生じさせているように見えます。

 この悪循環を断ち切る方法は1つしかありません。それは,一度仕事から離れてたっぷりと休養を取ることです。さしあたって3カ月程度会社を休んで,医師から処方された抗うつ薬をきちんと飲み,とにかくうつ病の症状を一度消失させてしまうことが必要です。休むことによって,それまであまり効いていないように感じていた薬の効果がはっきりと出てくることも少なくありません。仕事は驚くほど命のエネルギーを消耗させることがあるのです。

 たいていの企業には休職制度があります。まず,相談者がかかっている医師に話をして診断書を書いてもらい,その診断書を会社に見せて3カ月程度休職することを勧めます。

 勤務する企業に産業医がいる場合は,産業医に相談して,会社に対して休職に関する意見書を出してもらうことも有用です。あなたの直属の上司とも,会社を休むことについて,事前に話をしておくといいでしょう。

 会社を退職することは,今の段階ではお勧めしません。うつ病が回復すれば,問題なく仕事ができる可能性が残っているからです。

 休職してうつ病が良くなった段階になっても,「どうしても会社にいることがつらい」とか,「仕事をするのがいやだ」ということであれば,そのときに会社をやめればいいのです。うつ病にかかっているときは,自己を過少評価することが多く,将来についても明るいイメージを持ちにくくなっています。ですから,退職のような大切な決断は,病気が回復してから行うべきです。

河野慶三 富士ゼロックス全社産業医
1970年,名古屋大学医学部卒。厚生省,熊本県公害部首席医療審議員,労働省主任中央じん肺診査医,産業医科大学助教授,自治医科大学助教授を経て, 94年に富士ゼロックス本社産業医に就任。98年から全社産業医。著書に「働く人の健康管理」(労働新聞社)など。医学博士