複数の企業で事業体を構成する企業グループへの提案では、グループ全体が抱える課題を個々の企業の分析だけで把握することは困難です。グループの経営成績や財務状況を理解し課題を浮き彫りにするには、連結財務諸表の分析が有効です。今回は、連結財務諸表を活用した仮説検証型のソリューション提案について解説します。

 トヨタやソニーといった大企業は、何百という会社を傘下に持つ巨大企業グループです。傘下の会社の株式を保有し、自社からの取締役の派遣などで株主総会や取締役会といった意思決定機関を掌握し、傘下の会社を支配しています。会計制度には細かなルールがありますが、一般的に支配する方を「親会社」、支配される方を「子会社」と呼びます。

 企業グループでは、事業の中核となる研究開発、調達、生産、物流、販売などの機能すべてを親会社が有することは少なく、複数の子会社に分散させています(図1)。中には経理子会社や金融子会社などを設立して、グループ内の管理機能を集約している場合もあります。さらに最近は「純粋持株会社」という、親会社が事業運営の機能を持たず子会社の管理のみを行う形態も増えています。

図1●事業の実態を把握するためには、グループ全体を対象にした連結財務諸表が必要になる
図1●事業の実態を把握するためには、グループ全体を対象にした連結財務諸表が必要になる
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 本連載ではこれまで、財務諸表は会社個別の経営成績や財務状況を表すものとして説明してきました。しかし、複数の会社が相互に役割を担ってグループを形成しているとすれば、グループ全体をあたかも単一の組織と見なした財務情報が不可欠です。そしてこれを示すものが「連結財務諸表」なのです。

 連結財務諸表は、個別の会社の損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフロー計算書(C/F)を集計したものから成り立っています。しかし単純な足し算かというと、そうではありません。図2のP社、S社の2社の決算を見てみましょう。単体決算における利益はそれぞれ、P社が600円、S社が900円です。両社の利益を「単純合算」すると、グループの利益は1500円となりますが、果たしてこれは「企業グループ」の本来の利益になっているのでしょうか。

図2●連結決算により、グループ財務の実態が浮き彫りになる
図2●連結決算により、グループ財務の実態が浮き彫りになる
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 一方連結決算では、グループを一つの会社と考え、グループ外との取引による利益を計算します。この場合、原価1万円(仕入単価100円×100個)の商品を1万4400円で販売しており、費用を差し引くと損益は100円の赤字です。グループ全体の利益は、2社の単純な合計よりも1600円少ないことになるのです。

 2社の個別決算がともに「黒字」であるにもかかわらず連結決算が「赤字」となるのは、P社からS社に販売した商品在庫が原因です。P社はS社に180個の商品を販売していますが、そのうち外部に販売した商品100個分が、連結上の利益となります。在庫の80個分については、P社がS社に売却したときの利益が控除されてしまうのです。

 このように、企業グループ内での取引の影響を排除した経営成績を把握できることが、連結決算の果たす重要な役割です。