アカウントプランは顧客の深掘りをするための道具です。同時に営業パーソンの目標達成の裏付け、見通し付けの道具でもあります。目前の案件を追うだけの場当たり的な営業から計画的な営業への脱却は、多くの営業パーソンの重要課題。計画的な営業活動実践のために、アカウントプランは欠くことのできないツールとも言えるでしょう。

 これまで、アカウントプランの必要性や盛り込むべき内容、作成のための手法について解説してきました。しかし、アカウントプランを使いこなさなければ効果を期待できるはずはありません。シリーズ最後の今回は、その活用法に触れたいと考えます。アカウントプランは何の目的で作るのか、どのように活用すればよいのかを、具体的に見ていきます。

アカウントプランは深掘りの道具

 顧客から課題解決の相談を受けたり、RFP(提案依頼書)を入手したりして提案を行う日常の営業活動だけでは、顧客のそれ以外の課題を見付け出すことはできません。もちろん、顧客との商談で新たな課題を発見したり、仮説として課題を想定したりすることはできるでしょう。しかし、その場で発見・発想できる内容は、営業パーソンの個人の力量に負うところが多く、勘の世界ともいえるでしょう。

 しかし、勘に頼っていたのでは深掘りの成果を確実に獲得することはできません。個人の力量を補完するために、アカウントプランをツールとして活用するのです。アカウントプランを作るということは、顧客の課題をじっくり考えることと同じです。場当たり的に考えるのではなく、多角的・体系的に顧客の課題を考えることができるのです。プラン作成の中で多くの仮説を設定することができますから、その仮説を日々の営業活動で検証することになります。つまり、仮説を立てたうえで訪問に臨み、目的を明確にした営業活動ができるようになるのです。

 営業パーソンが顧客の課題を多角的に考えておくことで、商談時に新たな課題を発見することが容易になります。ベースとして知識を多く蓄えておくことが、新たな発想につながるからです。アカウントプランを作成することにより、顧客を取り巻く環境や課題についての知識が営業パーソンに備わるようになります。そして、知識と知識が商談の中で結び付いたとき、新しい発見を生み出すことができるのです。

アカウントプランは見通しを立てる道具

 目標達成は営業パーソンの責任です。しかし、期のスタート段階で達成の見通しが立っているのかとなると、はなはだ怪しい人が少なくありません。その原因は、営業パーソンが把握している見込み案件が少ないことにあり、すべてを受注できたとしても、目標にはほど遠い数字にしかならないからです。売り上げ目標がトップダウン方式で設定され、その具体的な方法や裏づけが曖昧になっているケースもあります。

 そういうわけで、実際に設定された目標は営業パーソンからみると達成ギャップが大きく、達成できる見通しが立たないまま新年度をスタートしている人が少なくないのです。会社として一度目標を設定してしまえば、営業パーソンの見通しが立たないからといって、目標を修正することはあり得ません。営業パーソンは目標を達成するために、担当顧客からどれくらいの売り上げを見込めるのか、新規開拓でどのくらい稼ぐ必要があるのかをもう一度積み上げ直すことが必要になります。

 アカウントプランを使って、顕在化していない見込み案件を想定したり、深掘りのネタを探したりしていれば、そのギャップは小さくなるはずです。営業パーソンが立案した目標の方が、トップダウン目標を上回ることさえあります。アカウントプランによって目標達成を確かなものにしたいものです。

アカウントプランによるチームアカウントの実践

 アカウントプランは、営業パーソン個人だけのためにあるのではありません。同じ顧客を複数の営業パーソンが担当する場合には、メンバーが集まって一緒にアカウントプランを作ることで、各営業パーソンが把握している情報を共有し、一緒に分析して顧客に対する認識を統一することができます。チームとしての活動方針を立てたり、相乗効果を狙った方策を立案したりすることも考えられるでしょう。

 チームアカウントという意味では、営業パーソンとSE、マネジャーなど関係者が集まって、アカウントプランを検討するのが本来的な活用方法です。営業パーソンの情報とは別に、SEは多くの顧客情報を持っています。関係者の情報を総合的に検討しながら、知恵を出し合って顧客の課題を検討し、ソリューションを考え出すのです(図1)。営業とSEが一緒になってアカウントプランを検討することにより、案件化したときの合意形成もしやすく、無用な内部調整努力を軽減できる効果も期待できます。

図1●アカウントプランを活用したチームアカウントの実践で
顧客の課題を総合的に検討する
図1●アカウントプランを活用したチームアカウントの実践で 顧客の課題を総合的に検討する

アカウントプランをいつ作るべきか

 アカウントプランは、いつ、どの段階で作ればよいのでしょう。顧客の新年度当初、または営業パーソンの新年度当初がアカウントプランを作るタイミングとして考えられます。しかし、新年度がスタートしてから計画を作るのではなく、計画作りを終えて新年度を迎えるのが本来的であるといえるでしょう。

 新年度を迎えるタイミングで担当顧客の変更がある場合には、担当顧客が決まってからアカウントプランを作成します。人事異動によって顧客が代わる場合も、決まった段階でアカウントプランを作成します。その際に既存のアカウントプランが、引き継ぎに大いに役立つことは言うまでもありません。

 顧客が次年度の事業計画を立案するのに合わせて、アカウントプランを作ることも考えられます。顧客の課題を抽出し、顧客に課題を提起しながら検証を進め、顧客の事業計画の中に取り入れてもらうのです。事業計画に参画することができれば、一歩も二歩も競合他社をリードできたことになります。

 顧客が上場企業の場合には、決算公告が発表されたタイミングでアカウントプランを作ることも考えられます。公開情報が多いことから、分析がしやすいというメリットがあります。既にアカウントプランを作成してある場合でも、公開情報を活用してアカウントプランをブラッシュアップをすることは必須でしょう。