情報サービス産業協会(JISA)
平成18年度 SI情報技術マップ調査委員会委員
三菱総合研究所 情報技術研究センター
主席研究員
白井 康之(しらい やすゆき)

今回の調査では、回答者が属する企業の資本系列や業態、回答者自身の担当職種や経験年数、顧客の業種などの違いによって、各技術に対する実績動向と着手動向に大きな差が生じていることが明らかになった。

 前編で見たような各要素技術の動向は、回答者の属性によって傾向が異なるはずだ。実際に今回の調査では、回答者が属する企業の資本系列や業態、回答者自身の担当職種や経験年数、顧客の業種などの違いによって、各技術に対する実績動向と着手動向に大きな差が生じていることが明らかになった。

 例えば図3は、顧客の業種が「銀行業」「サービス業」とした回答において、実績や着手意向が平均より大きく上回っている技術を抽出し、「業種別SIモデル」として考察したものである。

図3●銀行業、サービス業を例とした業種別SIモデル
図3●銀行業、サービス業を例とした業種別SIモデル
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 顧客の業種が銀行業かサービス業かによって、適用する、あるいは注目している技術が大きく異なっていることが分かる。このようなモデルを作成することは、情報サービス企業が新たな業種に顧客層を拡大していく際に、どのような技術が必要かを検討するのに参考になるだろう。

 担当職種別(IPA=情報処理推進機構によるITスキル標準11分類別)に見ると、コンサルタント職種ではITガバナンス/マネジメントや運用管理、ITアーキテクト職種では開発ツール/開発方式や運用管理、ソフトウエア・デベロップメント職種では開発ツール/開発方式というように、各職種において常識的に身に付けているべき技術群が明らかとなった。職種別に、技術への取り組みのすみ分けが進展しているとみることもできる。このような職種別の技術への取り組み動向は、各企業内における今後の人材育成計画において有益な指針を与えるものとなろう。

 その他、顧客業種や担当職種以外でも、回答者所属企業の資本系列(ユーザー系、メーカー系、独立系など)、SI業界における位置付け(SI、アウトソーシング、ソフトウエア開発など)、企業規模(従業員数)、経験年数などにおいて、実績と着手意向に関して有意な差が認められた。

 各企業あるいは個人レベルでは、自身の属性と同一な集団との比較、また、今後目指すべき集団との比較を行うことにより、現状の位置付けの把握、あるいは今後の方向性に関する指針を得ることができるだろう。

相関関係で見える技術者像

 「ある技術への着手意向が高いのは、どのような技術実績を持っている人なのか」、逆に、「ある技術への実績が高い人たちはどのような技術に着目しているのか」を見ることは、技術者の「動き」、すなわち今後の技術の推移(シフト)を予測する上で重要である。

 回答データにおける実績間の関連や着手意向間の関連、また、実績と着手意向の間の相関を調べることにより、このような技術者の「動き」が明らかになってきた。

 まず、カテゴリHのセキュリティ関連技術は、ここに含まれる各技術の実績間の相関が非常に高い。これは、セキュリティ分野に従事する技術者においては、カテゴリH内の技術を網羅的に習得しているという状況を表している。Kの運用管理技術においてもほぼ同様の傾向が認められる。

 同じく実績間の相関では、Webアプリケーションやオープンソース・アプリケーションの実績と、Web系スクリプト言語、J2EE、オープンソース開発環境、UML(統一モデリング言語)の実績が高い相関を示した。アプリケーション開発手段として、スクリプト言語やオープンソースを用いる技術者像が見えてくる。

 着手意向間の相関では、カテゴリC(システム連携とミドルウエア)内での着手意向の相関が高く、新しい技術の取り込みに積極的な技術者像が見える。カテゴリDのコンテンツ/ナレッジ管理およびコラボレーション技術においても同様の傾向が見て取れる。

 実績と着手意向の相関を見てみると、Java、オープンソース、Webアプリケーションなどの実績を有する技術者が、ESB(エンタープライズ・サービス・バス)、BPM(ビジネスプロセス管理)、SOAなどの技術に着目している。今後、より大規模な企業システムを構築するために、システム連携、ミドルウエア技術への取り組みを深めていると見ることができるだろう。

 また、セマンティックWebの着手指数は全体としては高くないが、オープンソース・アプリケーション・サーバー、EAI、コンテンツ・マネジメント、全文検索/検索エンジン、企業ポータルなどに実績のある技術者のなかでは注目されており、今後これらのアプリケーションを実現する手段として注目していることが分かる。

 同様に、アジャイル開発、UP(統一ソフトウエア開発プロセス)、MDA(モデル駆動型アーキテクチャ)、アスペクト指向などの新しい開発方法論は、全体で見れば着手意向は高くないが、オープンソース開発環境、UML、構成管理ツールなどに実績のある技術者内での着手意向は高く、新しい開発方法論として注目されている。

 以上のように、要素技術それぞれに関する動向を見るだけでなく、それらの相関にも着目することで、技術者がどのように動いてきたのか、また今後のどのように動こうとしているのかを推測することができる。