情報サービス産業協会(JISA)
平成18年度 SI情報技術マップ調査委員会委員
三菱総合研究所 情報技術研究センター
主席研究員
白井 康之(しらい やすゆき)

次々と新しい要素技術が登場するITの世界。今後のさまざまな戦略を策定する上では、現在、普及局面にある技術や、これからの注目技術を知ることが欠かせない。情報サービス産業協会(JISA)が、現場のエンジニア約2000人を対象に実施した調査結果を基に、“旬”の技術を探る。

 情報技術の進展は速く、それを取り巻くビジネス環境もまた劇的な変化を遂げつつある。こうしたなか、情報サービス産業の実際の現場において、エンジニアはどのような技術に取り組んでいるのか、また取り組もうとしているのか。バズワードと呼ばれるような実態が伴わないキーワードも数多く喧伝されるなか、実際の現場の状況はなかなか見えてこない。

 このような問題意識を背景として、情報サービス産業協会(JISA)は2005年(2004年度)から毎年、「SI情報技術マップ」を作成してきた。現場の技術者の生の声を収集・分析することで、さまざまな技術への取り組みの「実情」を把握するのが目的だ。今年で3回目となるこの調査では、単年度での分析に加え、過去2年間の動向を含めた時系列的な分析も実施し、ダイナミックな技術トレンドの把握を試みた。

 時系列的な動向を示す情報は、情報サービス産業が今後の人材育成や技術開発戦略を策定する上で有益であるのに加え、ユーザー企業の視点からも技術の普及状況や業界の動きを知るという意味で重要な指標を提供することができる。

各技術をライフサイクルで見る

 本調査で対象とする技術は、図1に示したように12カテゴリ、120項目の要素技術から成る。2007年(2006年度)調査は、過去2年と同様にJISA会員企業に対してアンケート調査を実施し、1963人のエンジニアから回答を得た。

図1●情報技術マップの調査対象としている、最新のJISA版ITディレクトリの構造
図1●情報技術マップの調査対象としている、最新のJISA版ITディレクトリの構造
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 アンケートでは、それぞれの技術に対する「現在に至るまでの実績」や「今後の着手意向」を回答してもらい、各要素技術に対する実績の度合い、着手意向の度合いを指数化した(以下、実績指数、着手指数と呼ぶ)。これにより、過去2年分と合わせて、3年分の実績指数と着手指数のデータが得られた。

 表12は、実績指数と着手指数それぞれの2007年上位20件について、過去2年の順位も併記して比較したものである。実績については各年で大きな差異は見られないが、着手意向に関しては、技術自体の変化(あるいは流行)やSI環境のダイナミックな変化を反映して、大きな変動が生じていることが分かる。

表1●「実績指数」上位20件の過去3年の順位変動。数字は各年における順位
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  表2●「着手指数」上位20件の過去3年の順位変動。数字は各年における順位
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表1●「実績指数」上位20件の過去3年の順位変動。数字は各年における順位   表2●「着手指数」上位20件の過去3年の順位変動。数字は各年における順位

 実績指数と着手指数をそれぞれ横軸、縦軸にとり、要素技術ごとに各年の指数をマッピングしてみると、情報サービス業界におけるそれぞれの技術の現在の位置付けとその変動を概観することができる。

 例えば、実績は低いが着手意向が伸びつつある技術群は「研究期」、研究期を脱して実績が伸びつつある技術群は「普及拡大期」、さらに実績が増大する一方で、着手意向が減少しつつある技術群は「成熟期」、また成熟期を越えて実績を有する人自体が減少している技術群を「衰退期」と特徴付けることができるだろう。

 技術は、研究期から普及拡大、成熟を経て衰退に向かうであろうという仮説の下に、このマップを情報技術のライフサイクルマップと呼んでいる。図2は120項目の技術のなかで、3年で特に動きが特徴的であったものを選択して表示したものである。全体を通じて見ると、ライフサイクルに沿って推移している技術が多く見られる一方で、研究期からなかなか動き出せない技術も少なくないことが分かる。研究期から普及拡大に至るには、いわゆるキャズム(ハイテクの落とし穴)が存在していることが示唆される。

図2●情報技術のライフサイクルマップ
図2●情報技術のライフサイクルマップ
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 ライフサイクルマップ上で特徴的な技術を挙げると、研究期にはウェアラブル・コンピュータ、アスペクト指向、セマンティックWeb、EII、分散オーサリング技術などが位置し、3年を通じて一定の着手意向を保ってはいるものの、次年度以降に普及拡大に向かうか否かは判断が難しいところである。

 また普及拡大期には、ブレード・サーバー、Linuxサーバー、全文検索・検索エンジン、オープンソースDBMS、ロードバランサ、RFID、XML、SOAP、プロジェクト・マネジメントなどが並んだ。SI業界を取り巻く環境やニーズを反映して、今後数年で大きく普及が進展すると考えられる。カテゴリHのセキュリティ関連技術や、Jの開発ツール/開発方式では、そこに含まれるほとんどの技術がこの領域に属している点も興味深い。

 成熟期にあるのはUNIXサーバー、商用DBMS、PCサーバー、IP-VPN、C/C++などで、情報サービス業界のエンジニアとしては、ほぼ常識化していると思われる技術が並ぶ。衰退期では、いわゆるレガシー系の技術が多い。事前の予想とほぼ相違ないが、Visual Basicが成熟期から衰退期に向かいつつある点が観察できる。

 カテゴリ別にライフサイクルマップを見ると、カテゴリ自体の特徴を把握できる。誌面の都合上、カテゴリ別のマップは割愛するが、その主な特徴を表3に整理したので参照されたい。

表3●ライフサイクルマップにおける各カテゴリ別の特徴
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表3●ライフサイクルマップにおける各カテゴリ別の特徴