Webとクライアントと融合させた次世代アプリケーションを巡る技術が相次いで発表されている。その1つに米グーグルが5月31日に発表した「Google Gearsがある。オフライン環境でWebアプリケーションを使えるようにするものだ。同社はこの技術をオープンソースとして公開し業界標準を狙う。同技術についてまとめた日経コンピュータ2007年6月11日号の記事を公開する。

 「Webアプリケーションはネットにつながっていないと使えない」。Google Gearsによって、こんなWebアプリの“常識”をグーグルは変えようとしている。

図●米グーグルが「Google Gears」を公開する狙い
図●米グーグルが「Google Gears」を公開する狙い
業界標準にするため、オープンソースとして公開した

 Google Gearsは、WebサーバーとWebブラウザの間でオンライン時にファイルを同期する機能と、クライアント・パソコンのWebブラウザにファイルをキャッシュする機能を提供。これらを、Ajaxを使って開発したWebアプリケーションに付加する。

 Google Gears担当のオスマン・ララキ プロダクト・マネージャによれば、「既存のコードをほとんど変更せずに、オフラインで利用可能になる」という。

 オフライン時には、パソコン内にキャッシュしておいたコンテンツを使って、Webアプリケーションを動作させる。米グーグルで開発者向けの支援プログラムを担当するブレット・テイラー氏は、「今のWebブラウザの標準機能では静的なコンテンツしかキャッシュできない。Google Gearsを使えば、Javascriptのコードのような動的なコンテンツをキャッシュできる」と話す。

 さらにテイラー氏は、「Google GearsはWebアプリケーションの制約を取り払い、ユーザーの体験を大きく進化させるものだ。地下鉄のようにネット接続が不安定な場所でも、オンライン時との違和感なしに使用できるようになる」と続ける。

 オンラインになっているかどうかによって、Webブラウザのアクセス先を制御するのは、Webブラウザ上で動作するプラグイン・モジュールだ。米アドビシステムズのFlash Playerのように、プラグインをWebブラウザにインストールしておく。公開時点での対応ブラウザはInternet ExplorerとFirefoxである。

 グーグルはGoogle Gearsを使ったWebアプリケーションの第一弾として、RSSなどのフィード(ブログの更新情報)を収集・閲覧する「Google Reader」を、同日に公開した。今後はワープロや表計算のGoogle Docs &Spreadsheetsや電子メールのGmailといった、ブラウザ上で動作するアプリケーションを、Google Gearsに対応させていくとみられる。

 グーグルはGoogle Gearsをオープンソースとして公開して、「グーグルだけでなく、すべてのWebアプリケーションの使い勝手を向上させる」(テイラー氏)。すでに米アドビ システムズ、米モジラ・コーポレーション、ノルウェーのオペラ・ソフトウェアが、賛同を表明している。

 アドビは、デスクトップ上でFlashやWebコンテンツを実行する技術「Apollo」に、Google Gearsを取り込む計画だ。テイラー氏は、「オープンソース・コミュニティからも、フィードバックを期待している」と語る。

 Webアプリケーションの操作性は、Ajaxなどによってデスクトップ用ソフトに見劣りしないものになってきた。Google Gearsが普及すれば、デスクトップにソフトをインストールするのが珍しい時代がやって来るかもしれない。