顧客別に営業の基本構想をまとめた「アカウントプラン」は、今やソリューション営業に不可欠なツールと言えます。この連載ではアカウントプランに対する誤解を解いたうえで、顧客の経営課題を把握し、ツボを押えたソリューションを提案するうえで強力な武器となるアカウントプランの作成・活用法を基礎から解説します。

 「アカウントプランとは、顧客のビジネスを理解したうえで解決すべき課題を体系的にとらえ、長期的・継続的にソリューションを提供するための目論見である」。これが筆者の所属する日本コンサルタントグループにおいて、ソリューション営業にかかわるコンサルティングチームが導き出したアカウントプランの定義です。

営業パーソンに多い“アカウントプラン否定派”

 アカウントプランとは、顧客別に営業活動の基本構想、つまり「どのようにソリューション営業を推進するのか」を文書としてまとめたものです(図1)。営業パーソンが顧客を担当するに当たり、顧客の経営課題を把握したうえで、個々の具体的なソリューションを提案していく必要があります。そこで、年度初めなどのタイミングでアカウントプランを作成するのです。営業パーソンはこのプランに基づいて、情報収集を日常的に行い、具体的な提案を行うのです。

図1●アカウントプランの一例
図1●アカウントプランの一例

 筆者は、営業パーソンが顧客に適切なソリューションを提案するために、アカウントプランは欠くことのできない重要なツールと考えています。ところが、多くの営業パーソンと接して彼らから意見を聞いてみると、アカウントプランに対する否定論が少なくないのが実態です。

 例えば、「アカウントプランは絵に書いたもちにすぎず、実際の営業活動には役立たない」「プランを作るのに時間と労力がかかり、負担が大きすぎる」「プランを作ったところで、その通りにならないのが営業活動だ」といった具合です。アカウントプランを作成する営業パーソン本人が、アカウントプランについて納得できていなければ、作成したプランが有効に機能するはずがありません。

 そこで本連載のスタートに当たり、アカウントプランに対する営業パーソンの誤解を解き、必要性を再認識することから始めたいと考えます。そのうえでアカウントプランの具体的内容や、作成に当たって活用したい手法などを紹介していきます。そして連載の終盤では、アカウントプランの運営や活用方法について考察します。

 この4月という時期は、新年度のスタートとなるソリューションプロバイダが多いはずです。また、アカウントユーザー自身も新年度を迎えているところが多いことでしょう。その意味では、これまでのアカウントプランを見直し、新年度のアカウントプランを設計する時期でもあるはずです。読者諸氏がアカウントプランを設計する際に、本連載を役立てていただければ幸いです。

絵に描いたもちにすぎない?

 「アカウントプランはしょせん絵に描いたもちにすぎない」。これが典型的なアカウントプランに対する誤解です。つまりプランの内容が理想論や、あるべき論になってしまい、実態のビジネスに結び付かないという主張です。そうした主張の内容をよく聞いてみると、解決すべき顧客の課題として取り上げる内容が、経営レベルの大きな課題になってしまい、ソリューションプロバイダが実際に解決策を提供できるレベルではないというのです。

 これは、ソリューションプロバイダがどのような領域のソリューションを提供できるのか、そのレイヤーの違いによって起こってくる問題です。経営レベルの課題を直接的に解決できない場合には、提供できるソリューションのレベルまで課題を細分化していく努力が必要なのです。

 そうすることによって、提案するソリューションの内容が経営レベルの課題に関連付けられて、顧客にとって価値の高いソリューションとして受け入れてもらうことができるのです。経営レベルの課題でなくても、経営課題との関連付けができるかどうかが、まさにソリューションベンダーとしての腕の見せどころであり、そのためのツールがアカウントプランなのです。

作成に負荷が掛かりすぎる?

 アカウントプランを作るには、顧客情報の収集と分析に少なからず時間と労力を要することは事実です。そして、顧客に対して提供するソリューションの内容と手立てを考えるのにも時間がかかります。しかし、このことは営業の本来業務です。個人ごとに考えのレベル差があるとはいえ、実行していない営業パーソンなどいないはずです。そして、営業パーソンの頭の中にあるものを明文化したのが、アカウントプランなのです。

 頭の中で考えたことを文章にすることは、とても大切な思考業務です。文章化することによって自分の考えを整理したり、まとめたりすることが容易になります。また、自分のプランの良否を組織的に検討するためにも、文章化して他の営業メンバーと情報共有することが欠かせません。従って、アカウントプランはソリューション営業にとって欠かせないツールといえるのです。

 営業パーソンの中には、多くの顧客を抱えている人がいます。何十社というレベルの人もいれば、何百社というレベルの人もいます。このような営業パーソンについては、個々の顧客が本当にアカウントすべき顧客なのかを再考し、アカウントプランを作成する顧客を絞り込む必要があるでしょう。

 図2に示したように、担当している顧客を成長性とインストアシェアを基準に分類し、最重点顧客についてアカウントプランを作成するなど、優先順位を付けて取り組むとよいでしょう。なお、成長性の基準については、売上高や利益の成長性を基準にしたり、成長性ではなく現在の取引実績を基準にしたりすることも考えられます。

図2●アカウントプランを作る顧客の選別
図2●アカウントプランを作る顧客の選別

 読者の中には、新規開拓をミッションにしている営業パーソンもいるでしょう。図2の中で言えば、インストアシェアがゼロのところで直線状にプロットされる顧客を担当する人です。この新規開拓ターゲットについても、顧客が抱えている課題は何か、どのようなソリューションが考えられるかという目論見を立てることは大切です。しかし、既存顧客に比べて情報量が限られていることもあり、アプローチ段階からアカウントプランを作成する必要はないでしょう。