「ユーザーとしては望んでないのに、Windows VistaやERPパッケージの新バージョンに移らなければならないのはもう勘弁して欲しい」。

 つい先日、ある建設業の情報システム部長からこんな話を聞いた。いわゆるバージョンアップ問題だ。ずいぶん前から記事で取り上げてきたが、ほとんど改善されていない状況なのだろう。

 ソフトウエアの新機能を必要としていないのに、サポート切れで新バージョンに乗り換える、新たなハードウエアを導入したいが旧バージョンでは対応しないので乗り換える、といった必要に迫られる。

 こうしたことが製品ユーザーの不満を募らせてきた。これに対し、ベンダーはサポート延長といった措置を取っているが、十分ではないといえる。

 サポート期間を延ばすのは、製品ベンダーにとってはコスト増になる。それゆえ、無期限にサポートというのはあり得ない。

 米オラクルは、オープンソースOSであるLinuxをベースにした製品「Red Hat Enterprise Linux」に対し、米レッドハットが保守しなくなった旧版までサポートを受け持つサービスを提供している。米レッドハットのサポート期間にユーザーが不満を持っているため、Linuxを推進したいオラクルが戦略的に実施した面が強い。製品ベンダーのビジネスが成り立っていると、「サポート期間を延ばして欲しい」というユーザーのニーズをなかなか満たせない。

 であれば、製品ベンダーは“ユーザーとしては望んでいない新バージョン”という問題を解消すべきだろう。

 例えば、日本オラクルは今年10月に出荷開始した新バージョンの「Oracle Database 11g」で、テスト工数を削減する新機能やデータを圧縮する機能の強化など、すぐに役立つ機能強化に重点を置いた。前回のバージョンアップでは、グリッド・コンピューティングといった新たなビジョンを打ち出したが、それとは打って変わって現実的な機能強化を図っている。

 単に新たなビジョンがなくなっただけかもしれないが、従来のユーザー不在ともいえる新バージョンの提供から方向性が変わってきたのは、ユーザーにとって朗報だろう。

 米マイクロソフトが今年6月に開いた、管理者や開発者を対象としたカンファレンスの「TechEd 2007」で“将来的な機能のビジョンを語らない”と方向転換したのも、同様な動きといえる。

 「サポート切れ」といったマイナス面の理由ではなく、「新機能が必要」というプラス面でバージョンアップを促せるようになれば、ユーザーの不満は解消されるのではないだろうか。“枯れた”ソフトでは難しいとは思うが。

日経コンピュータでは、Oracle Database 11gの主要な新機能を網羅したムック、「徹底解説 Oracle Database 11g 企業インフラの革新に効く機能強化の全貌」を出版しています。詳しくは、Webサイトをご覧ください。