内村 篤貴
NTTコミュニケーションズ
関西営業本部ソリューション営業部システムエンジニア

 WAN高速化装置の製品を選ぶ際には,装置のことはもちろん,アプリケーションやルーターなどの周辺機器を含む横断的な知識が求められる。

 また,カタログに記載されたWAN高速化装置の仕様を理解しただけでは十分とはいえない。実環境で動かしてみて,実際にアプリケーションのレスポンスが向上しなければ意味がないからだ。実機を使った検証が不可欠となる。

 そこで製品を選択する際は,机上での判断と実地検証の2フェーズに分けることが望ましい(図1)。まずは机上での判断で候補を数機種に絞り,机上では判断できない性能の違いを実地検証で比較するわけだ。 

図1●製品選択は二つの検討フェーズが必要
図1●製品選択は二つの検討フェーズが必要
まず第1フェーズの机上の検討により候補を数機種に絞り,第2フェーズでは机上の検討だけで判断できない性能の違いなどを,実施検証で比較して,最終決定する。

 机上で候補を絞り込む際のポイントは,(1)WAN高速化装置の設置方法,(2)高速化するアプリケーションの種類である。

容易な設置を実現するインライン型

 WAN高速化装置の設置方法は大きく二つある(図2)。一つがネットワーク上に直列でつなぐ構成。「インライン型」や「インパス型」などと呼ばれている。もう一つは,LANから張り出してWAN高速化装置を設置する構成である。こちらは「アウトオブパス型」あるいは「アーム型」などと呼ばれる。現状では,インライン型を推奨するWAN高速化装置が多いようだ。

図2●WAN高速化装置の設置パターンは二つ
図2●WAN高速化装置の設置パターンは二つ
ネットワーク上に直列に接続する「インライン型」と,既存ネットワークに張り出す形の「アウトオブパス型」に分けられる。現在は,インライン型の設置を推奨するWAN高速化装置が多い。
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 インライン型は主に,WANに流れるすべてのトラフィックをWAN高速化装置でハンドリングしやすい設置形態である。一般的にはWANに流れるトラフィックが集中する位置,つまりWANルーターのLAN側と接続する。この構成のメリットは,導入が比較的簡単なこと。設計時に他の通信機器と連携させるなどの手間がかからず,接続する機器と通信方式やインタフェースが一致すれば導入できる。

 また,QoS(quality of service)などの付加機能を活用しやすいメリットもある。最近のWAN高速化装置はQoS機能を実装した製品が増えている。通過するトラフィックにQoSを適用することで,VoIP(voice over IP)やテレビ会議など,リアルタイム性が重要なアプリケーションに応じたトラフィック制御が可能になる。

 インライン型で注意が必要な点は,搭載するインタフェースが他のLAN機器と合うかどうかである。LANのバックボーンを光ファイバのギガビット・インタフェースで構築しているユーザー企業が少なからずある。一方,現状のWAN高速化装置は光ファイバのギガビット・インタフェースを搭載できない機種が多い。この場合,インタフェースが一致しないために,インラインでは設置できない事態に陥る。

LAN形態に柔軟に対応するアウトオブパス型

 アウトオブパス型は既存のWANルーターなどと連携して動作する。ルーターがポート番号などの情報を基にトラフィックの種類を識別し,トラフィックが流れてきたら,WAN高速化装置あてにリダイレクトする。リダイレクトには,WCCPPBRなどのプロトコルを活用する。

 アウトオブパス型は,他の機器との連携が必要な分,インライン型より設定がやや複雑になる。さらに,通信機器がWCCPやPBRに対応しているかどうかを確認する必要もある。

 一方で,インタフェースの問題で装置を利用できないという事態は避けやすい。WAN高速化装置と一致するインタフェースを搭載するLANスイッチを用意して接続すれば済むからだ。WANルーターとインタフェースが一致し,そのポートに余裕があるなら,WANルーターと接続しても構わない。

 機能面では,高速化に対応するアプリケーションの種類と,付加機能の違いを順に比較するのがいいだろう。

 まず,どのアプリケーションに対応したプロトコル・アクセラレーション機能を備えているかをチェックする。CIFSの高速化はほぼ全てのWAN高速化装置が対応するが,メールやグループウエアなど,その他のプロトコルの対応状況は製品によって異なる。自社が高速化したいアプリケーションが対応しているかどうかの確認が必要だ。

 一方の付加機能も,メーカーそれぞれで開発しているため,製品によってばらつきがある。最近目立つ付加機能としては,HTTPS(HTTP over SSL)による暗号化トラフィックを高速化する機能,QoSへの対応,WAN上でのパケット損失を補う機能,パソコンに適用するクライアント・ソフト,トラフィック・レポート機能──などがある。

WAN高速化装置の適用方法は三つ

 最後に,ネットワーク設計時の基本パターンを紹介しよう。一般的には,(1)対象拠点を限定した高速化,(2)アプリケーションを限定した高速化,(3)全体的な高速化──が考えられる。WAN高速化装置は,高速化する対象が増えれば,それに応じて費用がかかる。それぞれのメリットとデメリット,および費用を考慮して,自社に最適な形で導入することを考えたい(表1図3)。

表1●WAN高速化装置の導入パターンはユーザーの目的によって異なる
表1●WAN高速化装置の導入パターンはユーザーの目的によって異なる


図3●WAN高速化装置の適用例
図3●WAN高速化装置の適用例
対象拠点や利用アプリケーションを限定する方法と,全体的な高速化を実現する方法がある。(1)と(2)は,回線速度とWA N高速化装置の対応速度が異なるが,WAN高速化装置が制限するのは高速化対象のトラフィックだけで,通常のトラフィックは回線速度で通信できる。(2)と(3)は,「設計根拠が最適化後の送信帯域とセッション数である機器」という前提の事例である。
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 一つめは,高速化を行いたい区間だけに機器を設置するパターンである。設備事情により帯域増強が困難な拠点や,国内に比べコストの高い海外拠点への導入で,とりわけ威力を発揮するパターンだ。高速化したい拠点との通信だけを考慮してスペックを決め,製品を選べばいい。

 次は,高速化するアプリケーションを限定するパターン。図3では,CIFSを対象した場合を例に取り上げている。このパターンは,(1)WAN高速化装置のスペックを他のアプリケーションで消費することを避ける,(2)CIFSのトラフィックを削減しレスポンスを向上させる──などの効果が期待できる。

 最後が,アプリケーションを問わずに,拠点間通信を全体的に高速化するパターンだ。それなりの性能・機能を備える機器が必要となるためコストは高くなるが,レスポンス向上と帯域増強効果が最大限に発揮できる。

 社内ネットを全体的に高速化できるので,レスポンスの向上と,サーバー設置拠点における帯域増強効果は特に優れる。サーバーから全ての拠点に向けて流れるトラフィックを削減できるからだ。このパターンの高速化の効果は大きく,秒単位のレスポンス向上が実感できる。

 実際の構築事例を見てみると,レスポンス向上効果の高いアプリケーションでは,WAN経由なのかLAN内なのか区別がつかないくらいレスポンスが高まったケースもある。改善効果の高い例の中には,特定の条件性能の低い拠点内サーバーにアクセスするよりも,WAN経由で高性能サーバーにアクセスする方がレスポンスが速いケースすら報告されている。

内村 篤貴(うちむら・あつたか) NTTコミュニケーションズ  関西営業本部ソリューション営業部システムエンジニア
1998年日本電信電話に入社。1999年のNTT再編時にNTTコミュニケーションズへ異動。IP-VPNなど法人向けネットワーク・サービスのマーケティングに従事したあと,現在はソリューション営業を行うSEとして活動中。