米グーグルが,コンシューマ向けのWebメール・サービスとして浸透した「Gmail」の企業向けバージョンを提供している。「Google Apps」というアプリケーション群サービスの一部として,Webページ作成ツール,スケジューラ,IM(インスタント・メッセージ),文書作成・共有ツールなどとセットになっている。コンシューマ向けとは明確に分けて,企業向けの機能を充実させた。一般企業向けには有料版と無料版の2種類がある。

 企業向けGmailは,コンシューマ向けGmailをベースにしたメール・ホスティング・サービスの体裁を取る。操作インタフェースはコンシューマ向けと同様だが,企業向けではロゴを変えたり広告を非表示にできる。ストレージを増やすことも可能だ。そして何より大きな違いは,ほかのホスティング型のサービスと同様に手持ちのドメインを使えることだ。つまりメールのアドレスを「~@自社ドメイン」に設定できる。

リッチな機能を自社ドメインでも使える

 企業向けGmailの特徴は「Gmailの操作性」を保ちながら「企業向けに特化したツールやサービス体制」を追加したことである。

 Gmailの操作性とは,コンシューマ向けのGmailで提供してきた大容量のストレージやセキュリティ,検索などの機能をそのまま使えることである。無料で使えるメール・サービスには,米マイクロソフトの「MSN Hotmail」(現在の「Windows Live Hotmail」)や米ヤフーの「Yahoo!メール」などがある。これらを追って,Gmailは2004年に「~@gmail.com」のアドレスを持つサービスとしてスタート。当初から無料サービスとしては大容量なギガバイト級のストレージを利用できたことで,ユーザーから支持を得ていた。

 GmailはWebブラウザから利用でき,メール・ソフトからPOP3やSMTPでアクセス可能である。Webメールの画面はメール・ソフトに近い操作性を持ち,メール本文の画面と受信メール一覧の表示を素早く切り替えられる(図1)。セキュリティ面では,スパム対策とウイルス対策を標準で搭載。グーグルが得意とする検索技術を使ったメール全文の検索機能も提供する。

図1●コンシューマ向けGmailをベースにした企業向けGmail
図1●コンシューマ向けGmailをベースにした企業向けGmail
企業向けに追加した機能は図中の黄色の文字で示した。
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業務利用に向いた機能をそろえる

 企業向けGmailはこうした特徴を引き継いだうえで,業務利用に役立つ機能を付け加えた。グーグル日本法人の大須賀利一エンタープライズセールスマネージャーは,「コンシューマ向けに提供してきた検索,メール,カレンダーなどのサービスを企業が活用できるように,Google Appsとしてまとめて提供した」と説明する(図2)。具体的には,ドメインやメール・アドレスの管理画面,電話サポート,ディレクトリ・サーバーなどの既存システムと連携するためのAPIなどがそろっている。

図2●企業向けのGmailはGoogle Appsのサービスとして提供されている
図2●企業向けのGmailはGoogle Appsのサービスとして提供されている
Google Appsというアプリケーション群のサービスに,自社ドメインで使えるGmailやユーザー管理ツールなどが含まれている。

 Google Appsは,4種類のEditionに分かれている(表1)。「Standard」は,機能に制限がある代わりにすべての組織に無料提供される。企業向けで有料の「Premier」と教育機関専用の「Education」になると,電話サポートやAPIなどすべての機能を使える。このほか,インターネット接続事業者(ISP)などがグーグルとパートナ契約を結び,そのパートナのブランドでサービスを提供する「Partner」がある。

表1●「Google Apps」には4種類のメニューがある
企業が利用できるのはStandard EditionとPremier Editionの2種類。Permier Editionは有料だが,利用できる機能やサポート内容で無料のStandard Editionを上回る。
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表1●「Google Apps」には4種類のメニューがある

 一般企業が自社ドメインでGmailを使うには,Standard EditionかPremier Editionを契約すればよい。ただしStandard Editionは,ストレージが1ユーザー当たり2Gバイトで,ドメイン名を自社のものにしたりユーザーを管理したりできるが,利用できる企業向け機能は限られる。

 有料のPremier Editionでは,電話サポートや既存システムと連携するためのAPIを利用でき,「メールの稼働率が99.9%」というSLAも付いている。ストレージは,1ユーザー当たり10Gバイトまで利用可能。料金は100アカウント以上で使う場合で1アカウント当たり年間6000円,99アカウント以下は日本円での料金はなく,1アカウントにつき年間50ドルだ。

企業の情シス担当者の関心は高い

 では企業向けGmailをユーザー企業はどう評価しているのか。ユーザー企業4社の情報システム担当者に聞いてみた(図3)。4社の担当者は全員,コンシューマ向けを個人的に使った経験があった。また,いずれの企業も現時点で企業向けGmailを採用していないが,関心はあるようだ。

図3●ユーザー企業はGmailの企業利用をこう見る
図3●ユーザー企業はGmailの企業利用をこう見る
関心を持ってはいるが,サービスで不明な点や不安な点を多数挙げている。
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 例えば,ソニー損害保険の土屋敏行システム企画1課主査は「グループウエアのシステムを更改したばかり。次の更改時にはGmailを含めて(グループウエア機能を持つ)Google Appsが選択肢に入ってはくるだろう」と言う。

 カシオ計算機はGoogle Appsの導入を考えたという。最終的にメールを自前で運用するという方針を継続したが,Google Appsの仕組みは評価している。情報技術グループの原裕一グループリーダーは,「(自社で運用できる)ライセンス販売はしないのか」と期待する。

企業利用となると不明点や不安点が

 その一方でシステム担当者からは,企業向けGmailに対する不明点や不安点が数多く挙がっている。例えばサービスの継続性,グーグルのセキュリティ体制,サポート内容,カスタマイズの範囲──などである。

 Premier Editionで設定しているメール・サーバー稼働率の99.9%について,ソニー損保の土屋主査は「許容範囲を下回る」と手厳しい。企業のそれまでのメールの使い方を引き継げるかというカスタマイズ性についても,不明点を挙げる意見が相次いだ。例えばユニバーサルミュージック情報システム部の西本武司次長は,「フィルタリングや,メーリング・リストを作るためのグルーピングができるかが分からない」と口にする。

 トラブル時などのサポート体制やその内容についての指摘や,個人情報の保護体制がグーグル側に整っているかというセキュリティ体制への指摘もある。さらに,メール本文に関連した広告が表示されるというGmailの仕様に対する疑問も少なくない。

 企業がメール・システムを変更する際に重要となるのは,使いたい機能がサービスとして整備されているかである。以下では,Gmailのカスタマイズ性やセキュリティ体制,サポート体制などを詳しく見ていく。