入札でNECに競り勝ちNTTデータが受注---。日本郵政グループが2007年10月に稼働させた郵便局の「顧客情報管理システム」争奪戦の深層である。決め手はSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型アプリケーション「Salesforce」だった。

 日本郵政グループが「顧客情報管理システム」の製品選定で最も重視したのは、短期間で完成できるかという点だ。実は、郵政グループが確保できる開発期間は2007年10月までの6カ月と決まっていたのである。WTO(世界貿易機構)の「政府調達に関する協定」に従ったシステム調達の手続きが「厳しい制約条件だった」(郵政幹部)からだ。

 郵政グループがシステム導入の検討を始めたのは06年7月。10月11日に社内のIT戦略委員会でシステム化を機関決定した。ここからが厳しかった。10月26 日、WTOの調達ルールに従い仕様書案を公開。仕様書案に対する意見の受入期間を設けた。ここでベンダー13社から意見を受け取り、それらを踏まえRFP (提案依頼書)を作成。07年1月10日に入札を公告し、落札ベンダーが決まったのは3月20日。システム化の機関決定から5カ月後だ。

 完成の期限は、民営・分社化により「郵便局会社」が発足する10月。顧客情報管理システムは、郵便局会社の社員が、満期を迎える保険契約者に投信を勧めたり、定期満期間近の預金者に保険商品をセールスしたりするのに使う。このような営業活動には、顧客から事前に個人情報の利用に関する同意を書面で得なければならない。「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命保険」は郵便局会社とは別会社だからだ。同意書の情報を一元管理するシステムが分社化時点で不可欠なのである。

 時間に追われる郵政グループが目を付けたのが、ソフトウエアの機能をネットワーク経由でサービスとして利用するSaaS型アプリケーションだ。ただしRFPに「SaaS型であること」と明記するのは難しい。そこを汲み取ったのがNTTデータだ。これまで付き合いがなかったセールスフォース・ドットコムに接近した。セールスフォースは単独での入札も考えていたが、郵政グループの案件で実績豊富なNTTデータを前面に立てた方が得策と判断した。

 実は日立製作所も、セールスフォースに触手を伸ばしたが、最終的にNTTデータにさらわれた。応札したのはNTTデータを含む4社()。日本オラクルのSaaS型アプリケーション「Siebel CRM On Demand」を担いだNECが最後まで争ったが、利用実績や使い勝手の評価などで一歩及ばなかったようだ。

図 日本郵政グループの「顧客情報管理システム」における入札経緯
図 日本郵政グループの「顧客情報管理システム」における入札経緯
米セールスフォース・ドットコムのSaaS型アプリケーション「Salesforce」を担いだNTTデータの提案が落札に至った
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