「雑用は何でもPMOへ」――。あなたのプロジェクトは、このような状況になっていないだろうか。PMOが“何でも屋”になってしまうと、いざという時、本当に重要な問題への対応ができなくなってしまう。PMOは、少し余裕がある「遊軍」としての働きが求められる。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー


 連載第1回の「事務局にあらず、庶務係にあらず」で書いたように、PMOは“何でも屋”ではありません。その半面、事務局・庶務係的な役回りをある程度期待されている組織であることも否定できません。実際、「担当が曖昧な仕事や雑用的な仕事をPMOが何でもやってしまう」というプロジェクトは、一見PMOのおかげでうまく回っているように見えます。

 しかし、ちょっとした雑務の積み重ねの結果、仕事量がPMOの許容範囲ぎりぎりになっていたとしたら、どうでしょうか。PMOは、進捗管理や課題管理などプロジェクト運営には欠かせない横断的なタスクを抱えています。もし、PMOが対処すべき新たな横断的タスクが発生したとき、プロジェクト運営自体が停滞してしまう危険性があります。

 特に、次のような負のスパイラルに陥るリスクがあることに注意すべきです。(1)PMOが対処すべき突発的な課題が発生→(2)PMOの負荷が増大→(3)ほかのプロジェクト運営タスクに遅れが発生→(4)ほかのプロジェクト活動へ影響→再び(1)に戻り別の突発的課題が発生、という悪循環です。PMO自身が新しい課題を誘発してしまうようでは、このプロジェクトはもう泥沼状態の一歩手前と言えるでしょう。

PMOは少し余裕があるくらいがちょうどよい

 繰り返しになりますが、PMOはプロジェクト運営にかかわる横断的なタスクを実施していく組織です。そして、プロジェクトを推進する中でプロジェクト横断的な問題は突発的に発生します。それに備えて、PMOは普段から「本当にPMOで実施すべき仕事」なのかを選別して、少し余裕を持っておく必要があります。この余裕がないと、想定外の事象に素早く対応できません。たとえ開発チームから「暇そうだねぇ」と嫌味を言われたとしても、PMOは「遊軍」たる一面を持っているべきなのです。

 PMOは開発チームとは違い、作業工数が増えたからといってすぐにメンバーが増員される組織ではありません。逆に、工程が進むにつれてPMOのメンバーは減らされていく運命にあります。この点を踏まえて、自ら実施すべき仕事の範囲を調節しておかないと、いざという時に「人手が足りない」という最悪の事態に陥ってしまうわけです。

 PMOには、課題管理や進捗管理などの重要なルーティン業務を着実に実施するという重要な役割があるので、厳密な意味においては純粋な遊軍ではありません。しかし、ぼやが発生した時、大火事にならないうちに素早く対応するという役回りは、プロジェクト状況を俯瞰しているPMOという組織だからこそできる仕事だと思います。皆さんのプロジェクトでも、PMOの現在の状況や役割をもう一度考えてみてはいかがでしょうか。


後藤 年成(ごとう としなり)

  大学卒業後,ニッセイコンピュータ(現ニッセイ情報テクノロジー)に入社。システム・エンジニアとしてホスト系からオープン系にいたる幅広いシステム開発を経験した後,2002年から野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントに携わる。2007年、マネジメントソリューションズに入社。「知恵作りのマネジメント」を支援するPMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp