「うつ病の原因として,職場の人間関係がよく挙げられるが,それにとらわれすぎるべきではない。本当の原因は別にあるケースも多い」。

 社会経済生産性本部の今井氏はこう指摘する。同生産性本部で実施したアンケート調査を基に,うつ病とストレスの相関を調べたところ,「職場の人間関係」よりも「仕事の正確度」の方が大きく影響しているとの結果が出た。

 「ミスをしてしまった,納期に間に合わない,スキルがない,といった状況が現場に生まれる。担当者はそれを隠そうとする。隠すことがストレスになる。先の見通しが立たない,自分の居場所がない,と感じるようになり,うつ病に至る」(今井氏)。

 仕事が正確な現場とはどういうものか。今井氏はチェックポイントとして次の4点を挙げる。

・何をすればよいかが分かっている
・その仕事をする理由を理解している
・どうすればよいかも分かっている
・それができている

 これらができている現場であるかどうかが,メンタルヘルスの問題を起こしやすいかの一つの指標となる。これらを現場で実践するための方法を見ていこう(図5)。

図5●現場を変えよう
図5●現場を変えよう
メンタルヘルスの患者を出さない,出しても復帰できる開発現場の「計画」「遂行」「外注管理」の方法。ビーコンITの資料を基に作成
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計画段階:情報共有の方法を決める

 プロジェクト・マネジメントに詳しいアイ・ティ・イノベーションの林衛氏(代表取締役)は「メンバーが先の見えない状態でシステムを作っている現場が多い。元気なうちはこき使われ,メンタルな部分が放っておかれている。プロジェクトの目標,自分の役割や責任が何なのかをメンバーが理解しておくことが重要だ」と語る。

 情報共有の方法を決めておくことも重要である。遅延などの問題が発生したときの対処法も計画時に決めておき,問題をメンバーが抱え込まないような仕組み作りを心掛けたい。

遂行段階:イベントを実施する

 「20年前もシステム開発という仕事はキツかった。しかし皆で頑張ろうという文化があり,コミュニケーションを取っていた。今は自分の仕事以外に関心を持つことが少なくなり,周囲の人のちょっとした変化を見逃してしまう」(林氏)。その結果,負荷のバランス調整や問題への対処が遅れる。そのきしみを個人が抱え込むことになる。

 「情報共有会議など業務上のコミュニケーションはもちろんだが,キックオフや稼働時など節目には何かイベントを開催して,周囲の人に関心を持つような試みも実践してはどうだろう」(ビーコンIT 福元氏)。

外注管理:パートナーとして扱う

 開発の現場で弱い立場に置かれやすいのが発注先や常駐のエンジニアである。「発注元のメンバーはいつも先に帰宅してしまう。それなのに問題が起きると責められる,というように,大事な役割を果たしているにもかかわらず“出入りの業者”扱いを受けている」(ライフバランスマネジメント 代表取締役社長 渡辺卓氏)。

 外注先はパートナーとして扱い,納品物やドキュメントを明確にしておく。遅延や品質に対する対処も契約の条項に盛り込んでおく。その上で同じチームの一員として接したい。