千葉市・幕張メッセで開催中の「東京モーターショー2007」(一般公開は10月27日から)では,各メーカーが独自の発想で,近未来の自動車や乗り物を提示する「コンセプトカー」が展示されている。なかでもホンダの「PUYO」(プヨ)はユニークだ。まるで,インターネット上で有名なFlash動画アニメ“やわらか戦車”みたいなデザインである。

ホンダのコンセプトカー「PUYO」   ホンダのコンセプトカー「PUYO」
ホンダのコンセプトカー「PUYO」。ライトがとてもキュート
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  ホンダのコンセプトカー「PUYO」。名前の通りプヨプヨしている
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 アニメのようにキャタピラがあるわけではないが,丸っこい外形が似ているのに加えて,車のボディ表面が本当にやわらかいのだ。PUYOのボディ(窓から下の部分)は,特殊なシリコン素材で覆われている。触れると,名前の通りプヨプヨしている。ホンダはこれを「ジェルボディ」と呼ぶ。

 マウスパッドの一部にこうした素材を使ったものがある。マウスを持つ手首の疲れを分散させるハンドレスト,リストレストなどと呼ぶ商品だ。あれをイメージしていただければ,PUYOボディの触り心地がわかるだろう。

 同社の説明員の話によれば,「軽く接触しても痛くないという特徴がある。何よりも,最近は四角くて“いかつい”表情の車ばかりが増えつつあるので,見た目だけでなく,触感でも柔らかさや優しさを伝えられるデザインにしたかった」と言う。

 しかし,真夏の暑い日差しに長時間さらされても,このボディは大丈夫なのだろうか。表面が溶けたり,異常に熱くなったりしないかと心配になる。「あくまでコンセプトカーなので,そこまではまだ考慮していない。量産化されることになったら,いろいろとテストすることになるだろう」(説明員)。

 PUYOにはこのほかにも,(1)ハンドルではなく,ジョイスティックによる運転操作,(2)前と後ろのタイヤが逆ハの字に開いて,その場で360度回転できる,(3)ガソリンではなく,水素で走る燃料電池を採用,(4)インテリアにも,触り心地がよいシルクタッチの素材を利用,などの特徴がある。

ハイブリッドスポーツカーやロボット機能搭載のコンセプトカーも

 ホンダだけではなく,今回の東京モーターショーでもメーカーごとに様々なテーマをかかげて,その特徴を前面に打ち出した車が数多く出品されている。コンセプトカーを見れば,近い未来の,自動車関連技術を見通すことができる。全部は紹介できないが,会場で目に付いた主なものだけでも紹介していこう。

トヨタのハイブリッドスポーツコンセプトカー「FT-HS」
トヨタのハイブリッドスポーツコンセプトカー「FT-HS」
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 まずトヨタのブースでひときわカッコいいフォルムを見せていたのが,ハイブリッドスポーツコンセプトカーの「FT-HS」だ。V6 3.5リッターのガソリンエンジンを搭載したハイブリッドシステムを採用し,カーボンファイバー製のホイールにフロント245/35R21,リヤ285/30R21という超大径・幅広の専用タイヤを履いている。スポーツカーで“エコ”という時代も,そう遠い未来の話ではないことを感じさせる。

 トヨタブースからもう一つ紹介したいのは,次世代都市型ヴィークル「Hi-CT」(ハイシーティ)。若者に人気の「bB」をさらに,いかつくしたようなスタイルだが,これは外部電源から充電ができるプラグインハイブリッドカー。後部には,自転車やサーフボードなどが積載できる後部デッキがあり,脱着可能なトランクボックスも用意するなど“遊び心”満載のコンセプトカーだ。


トヨタのコンセプトカー「Hi-CT」。「bB」の後継?   横から見ると特徴的なスタイルにビックリ
トヨタのコンセプトカー「Hi-CT」。「bB」の後継?
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  横から見ると特徴的なスタイルにビックリ
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日産のコンセプトカー「PIVO2」。どこが前だか分からないようなスタイル
日産のコンセプトカー「PIVO2」。どこが前だか分からないようなスタイル
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 日産ブースで最も来場者を視線を集めていたのは,なんといっても新発表の「NISSAN GT-R」。しかしその隣で,まるで正反対の印象を与える車が展示されている。それが日産のコンセプトカー「PIVO 2」(ピボ2)だ。PIVO 2は,360度回転するキャビンと電動フロントドアにより,どこからでも乗り込めるという特徴を持つ。さらに,ドライバーの表情や会話から状態を推定して話しかける「ロボティック・エージェント」機能を持ち,ドライバーを常にハッピーな気分にさせてくれるという。運転時のイライラは事故の元。このような車が実現すれば,交通事故は激減するかもしれない。

 こんなフレンドリーなコンセプトカーが出品されている一方で,ホンモノの“ビジネス志向”をうたうコンセプトカーも日産ブースに展示されている。それが「NV200」だ。展示車両は,各地の海を訪ねるオーシャンフォトグラファーの使用を想定したもので,プロの仕事をサポートできるよう,撮影した写真や映像の編集が行える装備も搭載しているという。


日産のコンセプトカー「NV200」。前から見た姿は特にコンセプトカーっぽくない   「NV200」を横から見たところ。プロの仕事をサポートする装備が満載されている
日産のコンセプトカー「NV200」。前から見た姿は特にコンセプトカーっぽくない
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  「NV200」を横から見たところ。プロの仕事をサポートする装備が満載されている
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“空気の流れが目に見えるデザイン”の「マツダ大気」   確かに「空から舞い降りてきた羽衣」のようだ」
“空気の流れが目に見えるデザイン”の「マツダ大気」
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  確かに「空から舞い降りてきた羽衣」のようだ
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北米国際自動車ショーで発表された「マツダ流雅(りゅうが)」なども展示
北米国際自動車ショーで発表された「マツダ流雅(りゅうが)」なども展示
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 マツダブースでは,ひときわ“ブッ飛んだ”デザインを見せるコンセプトカーが展示されている。それが「マツダ大気」だ。これは,昨年末のロサンゼルス国際自動車ショーで発表された「マツダ流(ながれ)」,今年1月にデトロイトで開催された北米国際自動車ショーで発表された「マツダ流雅(りゅうが)」,今年3月のジュネーブモーターショーで発表された「マツダ葉風(はかぜ)」で同社が追求してきた「Nagare」デザインテーマをさらに洗練・進化させたコンセプトカー第4弾。そのコンセプトは「空気の流れが目に見えるデザイン」だ。「空から舞い降りてきた2枚の羽衣のイメージを具現化した」という同社の説明にぴったりのコンパニオンが,同車の案内役を務めていた。

 なおマツダブースでは,マツダ大気とともに,マツダ流/流雅/葉風も展示されているので,そのデザインの変遷をたどることも可能となっている。


スズキのコンセプトカー「SUSTAINABLE MOBILITY 」(サステイナブルモビリティ)   高い積載性を持つスズキのコンセプトカー「X-HEAD」
スズキのコンセプトカー「SUSTAINABLE MOBILITY 」(サステイナブルモビリティ)
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  高い積載性を持つスズキのコンセプトカー「X-HEAD」
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1人乗りの低速移動ツール「PIXY」
1人乗りの低速移動ツール「PIXY」
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 スズキの4輪ブースに展示されているコンセプトカーの一つが,「SUSTAINABLE MOBILITY (PIXY+SSC)」(サステイナブルモビリティ)だ。これは,1人乗りの低速移動ツール「PIXY」(ピクシー)と,このツールと合体して自動車としての移動を可能にする軽自動車ユニット「SSC」(エスエスシー,スズキ・シェアリング・コーチ)との組み合わせ。このSSCには,PIXYを2台搭載することができる。スズキによると,SSCだけでなく,スポーツカーユニットの「SSF」やボートユニットの「SSJ」など,用途により様々なユニットを使い分けるというコンセプトに基づいているという。

 一方,「ジムニー」や「エスクード」というクロスカントリービークルを持つスズキならでとも言えるコンセプトカーが「X-HEAD」(エックス・ヘッド)。荷台はバイク収納用レール付き。マルチボックスが装備されたサイドパネルなどとともに,ユーティリティ性の高い荷台となっている。4WDシステム,サスペンション,タイヤなども具体的な説明がなされており,コンセプトカーといえども案外,製品化は近いのかもしれない。

ダイハツのコンセプトカー「MUD MASTER-C」(マッドマスターシー)   3面のガルウィングドアを持つマウンテンバイクのサポートモデル
ダイハツのコンセプトカー「MUD MASTER-C」(マッドマスターシー)
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  3面のガルウィングドアを持つマウンテンバイクのサポートモデル
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 最後に紹介したいのがダイハツのコンセプトカー「MUD MASTER-C」(マッドマスターシー)。コンパクトなフレーム付きボディの耐久性を持つベースモデルにアタッチメントを組み合わせることで,様々な用途に対応するというコンセプトの小型トランスポーターだ。今回は,自転車の積み下ろし時に利便性が高い3面のガルウィングドアのアタッチメントボディを採用した,マウンテンバイクのサポートモデルを展示した。軽自動車を中心に展開するダイハツならではの,「スモール&タフ」な車となっている。