SDP(service delivery platform)は既存の通話サービスや電子メールなどのデータ系サービスを組み合わせ,新しい通信サービスを開発し実行するための基盤である。既存の回線交換サービスをSIPベースのパケット網で実現するだけでなく,今までにない機能を新たに追加することも可能になる。

 SDPとは,NGN(次世代ネットワーク)上で通信事業者が契約者に対して「通信サービス」を開発し,提供するための仕組みである。

 通信サービスと聞いて多くの人が思い浮かべるのは通話サービスだろう。携帯電話ではこれに,電子メールやゲーム,ホームページ閲覧などのデータ系サービスが加わる。ただし現時点では,両者を連携させたサービスはあまりない。NGNで増えてくるであろう,通話とデータ系を組み合わせた通信サービスを開発・実行するのがSDPというわけだ(図1)。

図1●SDPとNGNの関係
図1●SDPとNGNの関係
通話とデータ系サービスを組み合わせた通信サービスを開発・実行する仕組みがSDPである。
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 例えば重要なプレゼンテーションの直前に図を修正し,修正個所を専門家にチェックしてもらう必要があるが,その専門家の所在が分からないという状況を考えてみよう。この状況で望まれるサービスはどのようなものなのか。

 サービス利用者はまず,その専門家のプロファイルをパソコンの画面に表示する。サービスを利用するために用意されたリンクをクリックすると専門家に電話がかかり,通話が始まる。ここで両者の電話画面には懸案の図が表示され,サービス利用者は専門家の指摘を電話で受けながらパソコンで図を修正し,両者が最終版を電話画面で確認したところで電話を切る。

 このサービスを構成する通話サービスとデータ系サービスのいくつかは,今でも存在している。まだない部分だけをSDPを使って作り,それらをSDPで組み合わせればサービスとして提供できる。

 SDPを使った場合,新サービスの開発者は「既存のサービスをどう組み合わせるか」に注力すればよいため,短期間で新サービスを市場に提供できるようになるのだ。

既存サービスをパケット交換で実現

 NGNを一口で言うと「IPをベースとした通信事業者の次世代ネットワーク」である。これに対して「今でも家で電話をかけながら,パソコンからインターネット経由でコンテンツを見られる。今のネットワークで何が不足なの?」という声が聞こえてきそうだ。

 この指摘は間違いではない。家で電話のモジュラー・ジャックにルーターと電話機を接続しているユーザーは,電話線1本で通話サービスもデータ系サービスも利用できているからだ。ただし,電話とファクシミリは電話機を,データ系サービスはパソコンを使って利用しているのが一般的だ(図2)。

図2●インターネット接続サービスと電話サービスの例
図2●インターネット接続サービスと電話サービスの例
回線は1本でもチャネルが異なっており,ユーザーは電話とファクシミリは電話機を,データ系サービスはパソコンを使って利用する。
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 この場合,電話線は1本でも,使っているチャネル(論理的な通信路)は異なっており,通話とデータ系を組み合わせた上記のような通信サービスの実現は,非常に難しい。

 電話やファクシミリは回線交換方式という,電話が発明された当時とあまり変わらない方式で実現されている。もちろん古い映画で見られるように電話局にいる交換嬢に相手の番号を伝えてつないでもらうのではなく,相手の電話番号をボタンで押して交換機につないでもらうのだが。

 これに対して,データ系サービスはパケット交換方式で実現されている。この方式では,メッセージの前に送付先のアドレスを付け,デジタル信号にして送信する。これだけでネットワーク内の機器がアドレスを読み取ってメッセージを届けてくれる。

 NGNでは,回線交換方式で実現していた通信サービスが,すべてパケット交換方式で提供される形でチャネルが一本化される。「えっ,そんなに簡単なことなの?」という声が聞こえてきそうだが,現実はそれほど簡単ではない。

 今は通話中,相手との間でチャネルを専有使用して音声を流している。ところがNGNではメールやコンテンツ提供,場合によってはテレビ番組も同じチャネルの上に乗せる。その影響で,電話が災害時でもないのにつながりにくくなるとか,つながったものの会話音声が途切れるという事態が起こっても不思議はない。

 今もあるデータ系サービスではデータが途切れても再送すればよく,よほど時間がかからない限りユーザーは気にしないだろう。ところが通話などのリアルタイム通信サービスでは,「使えないサービス!」という烙印(らくいん)を押されてしまう。

 こうした予期される事態に対応するべく,NGNではサービスごとにQoSを保証できるようにする仕組みが考えられ,世界各地で実証試験が行なわれている。それほどNGNの実現は簡単ではないのだ。

 これらの問題が解決したとしよう。ようやく,通信サービスについて語る番になる。回線交換網がパケット交換網に置き換わるのだから,まず「回線交換方式で提供されている通信サービスを,パケット交換の仕組みでどう実現するか」を考えなければならない。そのうえで「通話とデータ系を連携したサービス」について考えてみよう。