◆今回の注目NEWS◆

◎第2回 社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会(10月15日、厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/s1015-5.html

【ニュースの概要】10月15日に開催された「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」において、「利用者の利便性を高めるため、年金・医療・介護分野での活用を検討しつつ、他の社会保障分野における将来的な用途拡大(対象制度、閲覧可能情報等の拡大)を妨げない」という検討の方向が公表された。


◆このNEWSのツボ◆

 年金加入者記録の混乱を受けて、「社会保障カード」導入の検討が進んでいる。厚生労働省が設置する有識者による検討会が9月27日から活動を開始し、10月15日に開催された第2回の検討会では「論点の整理」が発表され、方向性がかなり見えてきた。

 このカードは、年金、医療、介護に関する3つの被保険者証を統一し、社会保障関係の各種情報の閲覧等を容易にするとのことである。基本的に、年金記録の行方不明といった問題も、こうした各種データの突合が可能であれば、かなりの程度防げたはずであり、取り組みの方向としては合理的であると考えられる。

 こうした「統合化」が進むと、また、住基ネット/カードの時のように、「センシティブな情報の漏洩危惧」「政府の一元管理への不安」が提起されるかもしれない。だが、むしろ政府がこうした情報を整合的に管理する責任を負うことで、年金記録の混乱といった事態が再発することを防止する効果の方を重視すべきではないだろうか。住基カードのような「結局、金だけかかって誰も使えない」ような仕組みの再現だけは、絶対に避けるべきだろう。

 他方、今、考えられている「社会保障カード」導入に疑問がない訳ではない。まず、既に一部でICカード化が進められている医療保険関係の保険証との調整をどうするのかということである。自治体や健保組合が大きな費用をかけてICカード化した保険証のIDを、もう一度見直し、新たなカードを発行するのだろうか?

 もう一つは、「なぜ、社会保障カードで管理される情報が、年金、医療、介護という3つの情報だけに限定されるのだろうか?」という疑問である。

 実際問題として、様々な公的情報のデジタル化、統合化は着実に進んでいる。例えば、パスポートにはICチップが組み込まれているし、運転免許証もICカード化が進んでいる。これ以外にも公的機関が発行するICカードの数は増えこそすれ、減ることはないだろう。ならば、いい加減に、こうした公的な個人情報の電子化を、もう少し整合的に進め、行政効率を上げる仕組みが考えられてしかるべきではないか? そうすれば、セキュリティ強化のための技術なども共用化、共通知識化することで、より有効なものになるように思われる。

 本来は、税務関係の情報などとも照合が可能であるべきではないだろうか? グリーンカードの一件以来、税務情報の電子化にはアレルギー反応が見られるが、納めるべき税金も納めない人物が社会保障の恩恵だけを享受する…といった事態は誰も望まないだろう。問題が起きてから、場当たり的に電子情報の管理・活用を検討するのではなく、政府全体として整合的な考え方の検討が行われるべき時期がきているのではないだろうか?

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。