それにしても驚くべき時代に生きているものだ。ハードウエアをインストールする際の煩わしさから解放され,企業レベルの堅牢性を誇るデータベース・ソフトウエアにアクセスでき,実質的な限界費用ゼロでハイエンドなWebサーバーを運用する,といったアイデアがSFの世界の話だったのは,それほど昔のことではない。しかし,プラグアンドプレイ,Microsoft SQL Server 2005 Express Edition,Internet Information Server (Serverを購入済みのユーザーにとっては無料といっていい)によって,想像の世界の話が実現してしまった。わずか10年前に制作費1億ドルで作成した特殊効果を使った映画を,いまのPCで39ドルのゲームで作成したグラフィックスと比べると,筆者の言いたいことがわかってもらえるだろう。

 今では当然のように思われている驚くべき技術のマイナス面は,筆者がコンピュータ技術者に何から何まで改良してもらうことを期待してしまうことだ。そのせいで,時計を実装している無数の物に非常にがっかりすることになった。

 先日,家の中を見回していたら,「今は正確には何時なんだ?」という疑問が浮かんだ。電子レンジに時刻が表示されている。その電子レンジとともにユニットに組み込まれているオーブンには,その時刻と3分ずれた時刻が表示されている。携帯電話は電子レンジと同じ時刻を示しているが,これは単なる偶然かもしれない。毎日コロラド州フォートコリンズからのWWVB AM信号を受信して正確な時刻に合わせる「驚くほど正確な原子時計」は,ずっと6時を指したままだ。コロラド州からの信号をバージニア州で受信できるほど高感度なら,当然部屋の照明が発する電磁波の影響をまともに受けてしまうからだ。そしてDVRだ。今は一致しているが,前の年と違う日に夏時間から標準時間に戻ると,数週間にわたって1時間のずれが生じてしまうのだ。さらに,コンピュータ技術者に影響する時間の問題が存在する。認証などの処理でトラブルが発生しないように,使用するすべてのコンピュータの時刻をできるだけ同期させておく必要があるのだ。

 実際,世間には大量のタイムサーバーが存在している。政府が運営しているタイムサーバーもあれば,親切な人が管理している無料のタイムサーバーもある。Microsoftは,Windows 2000にタイムサーバーおよびタイムクライアントのソフトウエアを搭載して以来,time.windows.comという総称で大量のタイムサーバーを運用している。しかし,筆者が運営するオンラインフォーラムを見てもらえればすぐにわかるように,時間同期問題は収まる気配を見せない。

 筆者が使っているVista Ultimateパソコンで時間を同期しようとすると,タイムソースとしてtime.windows.comを参照しようとするのだが,厄介なことにtime.windows.comよりも筆者のパソコンのほうが階層が上位であるというエラーが発生するのだ(技術用語で「NTPサーバー」と呼ばれる別のタイムサーバーを見つけることが最も簡単な解決方法らしい。こちらで使用可能なタイムサーバーへのリンクを知ることができる)。

 今回この記事を書こうと思ったのは,インターネットでNTPサーバーを管理している多くの人々の厚意を評価していないからではない。彼らには感謝している。しかし,筆者が家の中の様々な機器に付いている10数個のデジタル時計の時刻合わせをしながらいつも頭に浮かぶのは,「そもそもなぜ時刻合わせをしなければならないんだろう」という疑問だ。現在の社会には,電力網という形で全米に張り巡らされたネットワークが整備されている。筆者は常々,なぜ電力会社は電力線に低速の時間信号を流さないのだろうか,と疑問に思っている。

 そのような信号を1分おきぐらいに1回ずつ流して,通常の電力ノイズと明確に区別できるような特徴とエラーチェックの仕組みを組み込めばよい。このような電力信号は,AC線電流をほとんどすべてのデジタル機器で使用されているDCに変換する際に失われるので,多少設計に注意する必要はあるが,それを読み取る電子回路を作成するのはそれほど難しくはないだろう。

 ナノ秒単位の精度を実現するには電力会社に膨大な費用がかかるので,電力線経由で伝送するタイムサーバーを使ってそのレベルの時刻合わせができないことは明らかである。しかし,実際には,多くのネットワークセキュリティと多くの企業のニーズを考えれば,1分の誤差は問題にならないだろう。さて,そろそろお暇をいただく時間だ。