NTT東西地域会社は,光ファイバの8分岐のバラ貸しに反対する。コスト増や品質の確保が困難などをその理由に挙げる。そこでソフトバンクをはじめとするほかの事業者は,実証実験に踏み切った。バラ貸しが帯域の確保といった品質に問題が生じるかどうかである。

 NTT東西地域会社は,光ファイバの8分岐をバラ貸ししてほしいという要望に徹底して反対している。理由は主に三つ。(1)現在のPONは8分岐を複数事業者で共用する仕様になっていないため,運用システムの変更に大きなコストが必要,(2)ヘビーユーザー対策などのサービス品質の確保や,新サービスの追加に支障が出る,(3)設備収容の効率性を上げるのは各社の営業努力次第で,貸し出しルールは関係ない--である。

 NTT東西は,「シェアドアクセスを複数事業者で共用することは問題が大きく,実証実験をするまでもない」という趣旨のコメントを出している。

 意見の対立により,総務省の審議会などのパブリック・コメントやヒアリングでは,NTT東西とその他事業者の議論はいつも平行線が続いてきた。2006年にも総務省の「接続委員会」でシェアドアクセスのバラ貸しについて本格的な議論があったが,2007年3月の答申では,NTT東西に1分岐貸しを義務付けることは見送られた。

 ただし最終的な結論は先延ばしされた格好。2007年秋にNTTの次世代ネットワーク(NGN)の接続ルールを検討する場で,再度議論することになっている。

 これを受け7社は,PON共用の実証実験に踏み切った。「PONの共用には技術面や運用面,コストの面でまだ課題があるのは確か。しかし,『実証実験をするまでもない』と結論付けるのは早計。本当に不可能なのか,技術的に,事業者ごとの帯域確保ができるのかどうかを今回検証してみようと考えた」(ソフトバンクBBの土川保正技術戦略統括技術戦略室担当)。

ソフトバンクが他事業者に呼びかけ

 実証実験が動き始めたのは,2007年1月から。ソフトバンク・グループが東京・汐留の本社ビル内の一室に検証環境の構築を始めた。この作業と並行し2月~3月に,KDDIやアッカ・ネットワークス,イー・アクセス,TOKAI,ビック東海に実験への参加を呼びかけ,共同検証とすることを決定した。

 実際の検証を行ったのは5月~6月。実験をFTTHの商用サービスを展開しているソフトバンク・グループとKDDIが実施し,ほかの事業者は検証手順や結果をチェックするなど,実験の客観性を担保する役割だった。

 検証の中心は,「ヘビーユーザーによる通信の影響が,帯域制御をしているほかのユーザーに及ばないようにできるか」だった。

 具体的な構成は,最大1Gビット/秒対応の「GE-PON」を使い,8分岐のスプリッタを二つ利用して,「2事業者の16ユーザーがPONを共用する」とした(図1)。一つめのスプリッタにはすべて同一の事業者のユーザーを収容。もう一つのスプリッタは7ユーザーを同一事業者にして,残り1ユーザーだけ異なる事業者,という共用の構成とした。

図1●ソフトバンクなどが実施したPON共用の実証実験の検証環境
図1●ソフトバンクなどが実施したPON共用の実証実験の検証環境
東京・汐留のソフトバンク本社内に検証環境を構築。網側とユーザー宅側にそれぞれトラフィック・ジェネレーターを設置し,上り/下りの通信環境を実現した。2事業者の16ユーザーでPONを共用した場合を想定し,帯域制御などが可能かどうかを検証した。
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OLTとL2スイッチで帯域制御を実施

 帯域制御機能は,局側に設置する2種類の機器に搭載した。具体的には「OLT」(optical line terminal)と通信事業者を振り分ける「L2スイッチ」である。OLTやONU(optical network unit)などは米UTスターコムの製品を,L2スイッチは米シスコ・システムズの「Catalyst4948」を使った。

 検証における1ユーザー当たりの最低保証帯域は,(1)音声,(2)マルチキャストによる映像配信,(3)ネット接続--のアプリケーション利用を想定して,合計60Mビット/秒にした。ユーザーごとにVLAN(仮想LAN)を割り当てて,それぞれの通信を識別する。全員がフルに通信すると,「16ユーザー×60M/秒=960Mビット/秒」となる。GE-PONの最大帯域である1Gビット/秒をギリギリまで使うことになる。

 この状態で,1ユーザーがさらに500Mビット/秒のトラフィックを一気に流したときに,ほかのユーザーのトラフィックがどうなるのかを調べた。1Gビット/秒を超えるトラフィックが発生した場合に,ユーザーごとの帯域確保やアプリケーションごとの優先制御が可能か検証したのだ。

 結果は,「最低保証帯域の設定をしておけば,16ユーザーで合計960Mビット/秒の帯域を使っているときに,さらに500Mビット/秒のトラフィックを流しても,各ユーザーの通信には影響がでないことを確認できた」(KDDIの斎藤茂・渉外部NW企画調整グループ課長補佐)。一方で,「帯域制御をしていない場合にヘビーユーザーがいると,16ユーザーすべてのトラフィックが均等に落ちる」(ソフトバンクBBの土川担当)という。

 7社は,検証項目のいずれも「問題なし」とする。VLANの割り当てや優先制御と帯域制御,余った帯域の分配など,L2スイッチとOLTの機能により,すべて技術的には実現できると確認した(表1)。マルチキャスト通信でも帯域を保証できたという。

表1●実証実験の検証項目と,その結果
(1)VLAN割り当てなどの基本機能,(2)優先制御機能,(3)帯域制御機能--を検証。この結果,「ユーザーごとの上り/下りのトラフィックの制御が可能で,複数事業者のユーザーでPONを共用しても,他社に悪影響を与えなかった」という。
検証項目 基本機能
検証内容 1ユーザーごとのVLAN割り当て 利用可能なVLAN IDの数
トラフィックの方向
対象機器 事業者振り分け用スイッチ(以下,L2スイッチ),OLT L2スイッチ,OLT
結果 1ユーザーごとのVLAN割り当ては問題なく可能 検証では16ユーザー分,16個のVLAN IDを使ったが,問題なく通信が可能
検証項目 優先制御機能
検証内容 ToSを使った優先識別子の設定 識別子を使った優先制御
トラフィックの方向 上り 下り
対象機器 L2スイッチ,OLT OLT L2スイッチ
結果 トラフィックごとの優先識別子の設定が可能 音声を最優先としたが,問題なく優先制御が可能 問題なく優先制御が可能。マルチキャストのトラフィックも帯域保証が可能
検証項目 帯域制御機能
検証内容 最低帯域の保証 余剰帯域の分配
トラフィックの方向 上り 下り 上り 下り
対象機器 OLT L2スイッチ OLT L2スイッチ
結果 検証では「上り60Mビット/秒」の最低帯域保証を設定したが,問題なく制御が可能 検証では「下り60Mビット/秒」の最低帯域保証を設定したが,問題なく制御が可能。マルチキャストのトラフィックも帯域保証が可能 帯域保証しても余った場合の帯域を共用することが可能 帯域保証しても余った場合の帯域を共用することが可能。マルチキャストも問題なく通信できることを確認
ToS : type of service OLT : optical line terminal VLAN : 仮想LAN

次は実機を使った検証を予定

 7社は今回の実験後,NTT東日本に「実際のPONを使って検証したい」,「NTT東日本も実験に参加してもらいたい」と打診した。実験への参加は断られたが,NTT東日本が実際のFTTHサービスで使っているNTT仕様のPONを実験に使ってもよいという許可を得たという。

 NTTにPONを納品している通信機器メーカーと交渉を進めており,機器を入手でき次第,実機を使った検証を始める予定だ。

 ただし今回の実験はあくまでも技術面の検証に過ぎない。トラブルの際の対応はどうするのかなどの運用面や,L2スイッチを設置する際のコスト負担と管理の問題など,技術面よりも複雑な課題が山積している。実機を使った検証でも,NTT東西を巻き込んだ運用ルールの策定に向けた取り組みが重要になる。その上で,総務省のNGN接続ルールの検討会がどういう結論を出すのか,今後の議論に注目が集まる。