4万3000人月に及ぶ民営・分社化の暫定対応と並行して、郵政公社はもう1つの巨大プロジェクトを進めてきた。新システムの操作研修と業務訓練である。24万人の職員がこなす研修を合計すると工数は7万人月に及ぶ。

 「システムが完成しても、現場の事務が混乱したら民営・分社化は失敗だ」。間瀬理事の掛け声で、05年10月から研修プロジェクトが動き出した。

「講師」の「講師」を育成

図1●民営・分社化に伴う新業務の訓練やシステム操作研修の推進手法
図1●民営・分社化に伴う新業務の訓練やシステム操作研修の推進手法
24万人の職員が効率的に研修を受講できるようにするため、講師の育成を先行させるなど3階層の研修方法を取り入れた
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 郵政公社の研修計画における最大の特徴は、本社、支社、郵便局の3階層で進める点だ(図1)。上位2階層は講師の育成である。「24万人の職員が滞りなく研修を受けられるようにするには、いきなり研修に取り掛かるのでなく、講師を育成するのが最優先」(吉本理事)と判断した。

 まず、本社の研修推進担当者が、北海道から沖縄まで全国13カ所の支社を手分けして訪れ、支店の職員を「インストラクタ」に育てる。業務訓練やシステム操作研修の内容、重要ポイント、職員への説明方法などを伝えるのだ。

 支社のインストラクタは、教わる側から教える側に回る。管轄する地域の郵便局から代表者となる「リーダー」を集め、自らが教えてもらった内容を伝える。郵便局に戻ったリーダーは、局員に10月以降の業務手順や既存業務との変更点、新システムの操作方法などを説明する。本支社や事務センターなどに勤務する職員も、基本的には同様に3階層の方式で研修を受ける。


「郵便局は代理店」との認識を徹底

 主な研修のテーマは、郵便局の職員であれば通帳の切り替え、民営化前後による新旧勘定の分離、日締め処理や現金の扱い方、営業・勧誘に関する注意などである。収入印紙の扱い方なども把握しなければならない。

 最大のポイントは、分社化によって郵便局はゆうちょ銀行とかんぽ生命保険、郵便事業という3社の販売代理店になるという事実を職員に理解してもらうことだ。郵便局会社の職員が、満期を迎える簡易保険の契約者に投信を紹介したり、定期満期間近の預金者に電話をかけて保険商品をセールスしたりするには、顧客から事前に個人情報の利用に関する同意を書面で得なければならない。ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険、郵便局会社はそれぞれ別会社だからだ。顧客の同意書は、セールスフォース・ドットコムのソフトウエア・アズ・ア・サービス(SaaS)「Sales-force」を使って一元管理する。

 ゆうちょ銀行などが直営店を出す大規模な郵便局では、窓口によって会社が分かれる。この場合、銀行窓口のゆうちょ銀行職員は、郵便窓口が混んでいるからといって、手伝うことはできない。顧客からクレームが出る可能性は十分にある。そうしたケースも想定して、業務マニュアルを準備しておかなければ、現場は混乱する。

「現場の業務が回って初めて成功」

図2●業務訓練、システム操作研修の実施スケジュール
図2●業務訓練、システム操作研修の実施スケジュール
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 郵政公社の3階層にわたる研修は、06年9月から段階的にスタート。民営・分社化直前の07年9月まで続く(図2)。計画段階では、8月ごろまでに完了させたかったが、郵便システムの開発が遅れたこと、保険システムの修整部分で発生した不具合の対応などにより、予定よりも若干長引いた。7月の九州地方を襲った台風4号や中越沖地震などの影響も、少なからずあった。

 だが、1年前から綿密に準備していたこともあり、滑り込みセーフでなんとか間に合った。