民営・分社化に伴うシステム暫定対応は、この10月に完了した。だが、真の民営化プロジェクトは、むしろこれからが本番だ。銀行、生命保険、物流といった市場でライバルと伍していくための、システム作りが始まる。大手金融機関やITベンダーなどで経験を積んだ5人のCIOの手腕が問われる。

 郵政民営・分社化に伴い、日本郵政グループのCIOは3人から5人に増える。10月1日に誕生した5つの新会社に、それぞれCIOを置くのだ。

 狙いは民間企業と競争するためのビジネスモデル作りと、それを支える情報システムの構築。業務部門の近くに置くべきだとの判断から、IT部門も分散させた。10月の「暫定対応」は、あくまでも現在の事業モデルの延長であり、新しいビジネスモデルの構築こそが、民営化の「本格対応」なのだ。

ゆうちょ銀CIOは生え抜きの間瀬氏

 郵政公社の3人のCIOのうち、主に貯金システムと保険システムを管轄してきた間瀬朝久 前理事は、ゆうちょ銀行のCIOに横滑りした。元々貯金システムを担当していたこともあり、古巣に戻った格好だ。間瀬氏は、3万人月を超えるゆうちょ銀の本格対応で陣頭指揮を執る。

図●10月1日に誕生する5つの新会社のCIOと各社が今後注力する主な開発案件
図●10月1日に誕生する5つの新会社のCIOと各社が今後注力する主な開発案件
5社のCIOを中心にIT戦略の強化を目指す
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 プロジェクトの目玉は2つある。1つは旧大和銀行の勘定系システム「NEWTONvを使った全銀システムとの接続だ。もう1つは、旧UFJ銀行の勘定系システムをベースに、融資など新商品を販売するための基幹系システムを構築する案件だ。全銀接続用システムは08年5月、基幹系システムは09年1月の完成を目指す。

 これらの本格対応が完成すると、貯金システムを合わせて3つの勘定系システムが別々に稼働する構成になる。どう考えても非効率だ。間瀬氏は、「将来は3つの勘定系システムの統合を考えていかなければならない」と悩みを見せる。間瀬氏には、本格対応のさらに先のIT戦略を描く必要がある。

 かんぽ生命保険のCIOは、日本生命保険出身の宮嵜和夫氏が務める。保険システムは暫定対応でほとんどの要件を実装済みのため、次期システムの構築に向けた具体的な検討に入っている。

 ただし、保険システムは暫定対応の最終テストでバグが多発するなど品質面に問題を抱えている。10月以降、これらの不具合によるシステム障害が起きると、次期システムの開発に支障を来す恐れがある。

 郵便事業のCIOには、前・郵政公社常務執行役員の塚田為康氏が就いた。塚田氏は現在、郵便事業のIT本部長を務めている。郵政公社における3人のCIOの中で、郵便システムに最も深くかかわっていた吉本和彦理事が有力との見方もあったが、結果的に郵政生え抜きの塚田氏が任命された。