トイレタリ用品で首位、化粧品は2位と高いシェアを持ち、05年3月期決算までは24期連続増益を続けてきた花王。その強さの源泉の一つはやはり、研究所での基礎研究にある。そこでもITが活躍している。特に、06年8月に導入した「新処方設計支援システム」は、「研究所の活動だけを支援するというよりは、基幹系の一部といえるほど重要なシステム」(情報システム部門の田中智仁課長)だ。同システムを利用すれば、研究者の仕事である、シャンプーや化粧品などの成分を記載した「処方せん」の作成、その成分の含有量が法律違反をしていないかの調査、薬事申請の手続きを容易に行える(図1)。

図1●花王は業務フローに沿った新システムを稼働させ、研究者の負担を軽減した
図1●花王は業務フローに沿った新システムを稼働させ、研究者の負担を軽減した
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 もちろん、従来も、処方せん管理、原料管理、薬事申請などを支援するシステムは存在した。しかし業務ごとに異なるため、成分データなどで同じ内容を何度も入力する必要があった。しかも、処方せんで使う原料の通称と、薬事申請で必要な成分名称は異なる場合が多い。その言い換えを調べる必要があり、ミスも起こり得た。法律が改正されたり、法律が異なる別の国で販売するとなると、その内容も随時調べなければならなかった。

 新システムでは、こうした手間を軽減する。データベースを一元化し、名称などを自動変換する。法律内容を参照する機能や承認ワークフローの機能を備え、研究成果文書の共有も可能だ。こうした機能は、組み立て型製造業が製品開発に使うPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)のパッケージ・ソフトを利用して実現した。「このシステムのおかげで研究者が研究に集中できる」(研究開発部門研究企画Gの小松崎啓行氏)。

 現在は社内の別部門も活用し始めた。商品パッケージのラベル作成や、生産管理システムへの成分データの反映などだ。商品開発の革新を進めるITが、企業全体にも影響を与えている。