2007年6月11日。今日は合格発表の日。正午の合格発表直後は情報処理技術者試験センターのホームページがつながりにくい。今回こそ手ごたえはあったものの,2006年まで3年続けて論文評価が“B”で不合格だった,という苦い記憶がよみがえる。

 システム監査技術者試験には,2002年,2004年,2005年,2006年と,過去4回チャレンジしていた。受験を始めたのが何年前からだったか,すぐには思い出せないほどだ。この試験の受験は,ITソリューションベンダーに勤務している私が入社以来積み重ねてきた情報処理技術者試験へのチャレンジのひとつである。

 システム監査技術者試験を受験するに当たっては,システム監査の基本を習得することが必須で,経済産業省が策定した「システム管理基準」と「システム監査基準」は避けて通れない。

 2002年に初めてシステム監査技術者試験を受験したときは,当然これらに目を通し,システム監査技術者試験の問題集を解き,システム監査のノウハウが凝縮された“システム監査のバイブル”とも言える「情報システム監査実践マニュアル」(日本システム監査人協会編集)を熟読し,模擬試験も受けた。しかし残念ながら,結果は不合格であった。

セミナーでシステム監査業務を疑似体験

 2002年の試験で不合格になったときは,不合格の要因は「経験不足」と決めてかかっていた。システム監査の実務経験がないのだから「不合格もやむなし」と判断し,対策としては「実務経験しかない」と考えた。

 しかし,そうは言っても,簡単にはシステム監査を経験する機会など得られない。そこで思いついたのが「疑似体験」だ。

 なんとか疑似体験ができないか,といろいろ調べたところ,日本システム監査人協会が,システム監査人の実務能力の維持・向上のための「システム監査実践セミナー」を開催していることを探し当てた。5人程度のグループで,トップインタビュー,監査計画書作成,予備調査,本調査,監査報告といったシステム監査の実務を実際に体験できるセミナーである。2003年にこのセミナーを受講し,無事,システム監査の疑似体験は終了した。

 疑似体験も行ったので「試験対策は万全」。こう思って,2004年に再挑戦した。直前に受けた模擬試験では午前の選択式問題がボーダーラインという結果だったため,試験前には過去問題を集中的に勉強した。だが,またしても結果は不合格であった。

B評価の原因をまじめに分析

 翌年の2005年と,2006年にもチャレンジしたが,結果は3年連続で不合格だった。

 4回のチェレンジで,午前の選択式問題と午後Iの記述式問題については,知らず知らずのうちに解答のテクニックが身に付いていた。2006年の試験では,午前も午後Iも,時間が余るようになってきていたのだ。

 問題は,午後IIの論文だった。論文の時間は120分。業務上,報告書などの文章作成は必須であり,社内論文公募へも毎年参加(投稿)している。さらにシステム監査技術者試験と同様に,午後に120分の論文がある「システムアナリスト試験」や「プロジェクトマネージャ試験」にも合格している。このため,120分の中で構成やキーワードを考えて論述することには慣れているつもりだった。しかし,2004年から3年連続で,論文評価は“B”だった(“A”を取らなければ合格できない)。

 「このままでは合格できない」。そう考えた私は,2006年の試験で不合格になった後,論文が“B”評価だった原因をまじめに分析してみた。その結果,分かったのは以下のようなことだ。

不合格要因 その1

 受験のコツを伝授する,あるホームページによれば,この試験の論文で最も重要なことは「“いるか”の精神」という。

 「“いるか”の精神」とは,「情報戦略は,経営戦略との整合性を考慮して策定しているか」「情報システムの企画,開発,運用及び保守業務に係わる標準化の方針を明確にしているか」「情報戦略の有効性を評価しているか」といった,システム監査基準(1996年1月30日改訂版)の実施基準に記載されている各種の“いるか”を,テーマに合わせて列挙することを指す。

 これが不十分では,説得力が損なわれるため,大きな失点になるという。自分の論文を振り返ってみると,確かに的確な“いるか”を列挙していなかった。これが評価“B”の大きな要因のようだ。

不合格要因 その2

 過去問題集の論文の解答例を熟読するうちに,「具体的に論述すること」が求められていることを再認識した。思い返せば,論文の最後の「設問」に「具体的に述べよ」と書かれているにもかかわらず,具体的に論述していなかった。

 既に合格しているシステムアナリスト試験やプロジェクトマネージャ試験では,午後IIの論文の最後の「設問」は,「論文の結論」であり,本論の内容を評価して今後の課題を述べれば収まりがよい。しかし,システム監査技術者試験は,どうやら違うようだ。

不合格要因 その3

 この試験の論文では,“システム監査の経験”に基づいて論述することは必ずしも求められていない。極端な話,システム監査の実務については,“経験不問”と言える。

 しかし経験不問とはいえ,「システム監査人としての立場」を忘れると不合格となる。つまり,システム監査人として「第三者的立場で客観的に評価する」ということを忘れて,“当事者としての論調”になってはいけないのだ。

 私は,システム監査の実務経験はないものの,当事者としての実務経験は豊富に持っている。システムアナリスト試験やプロジェクトマネージャ試験なら最大の武器となるはずのこの実務経験が,この試験では仇になるようだ。

“いるか”の列挙と具体的な監査手続きの論述が勝因

 こうした不合格要因の分析に基づいて,2007年の試験に向けて,以下のような対策を実施した。

 まず,システム監査基準(1996年1月30日改訂版)の実施基準を熟読し,丸暗記こそしなかったが,主要な“いるか”を列挙できるよう準備した。さらに,過去の問題で監査手続を具体的に記述することを求められたことがあったため,具体的な手続きを論述できるよう準備。加えて,「いままでの成功体験は忘れて,第三者的立場で客観的に」というスタンスを徹底するよう,自分自身に言い聞かせた。

 2007年4月15日の試験実施日の前日には,念のため午前の過去問題を再度復習。その後,情報処理技術者試験の出題範囲に載っているシステム監査技術者の「対象者像」および「役割と業務」を読み返して試験に備えた。

 そして,6月11日の合格発表の日。情報処理技術者試験センターのホームページで「合格」の文字を見たときは,「予想どおり」という気持ちと,「ようやくゴールにたどり着いた」という安堵感に満ちていた。前述した“いるか”の列挙と,具体的に監査手続について論述できたのが勝因と思っている。

 多くの上司・同僚から祝辞を頂戴したが,合格発表当日の夜に,ともに受験しその難しさを実感している社内の先輩たちに祝杯を上げてもらったときの喜びはひとしおだった。

 エンジニアとして,知識を習得する意欲を持ち続け,業務に活かしていくことは,自分のためになるという確信を持っている。情報処理技術者試験の7枚目の合格証を手にした今,得た知識を実務に活かす方法と次なるチャレンジ目標を探している。

試験概要:システム監査技術者試験
情報処理技術者試験の1区分。トップマネジメントの視点で,情報システムの経営に対する貢献度を総合的に調査,評価し,問題点に対して改善勧告を行う。情報システムが企業および社会に貢献することを目的として,改善を促進するための幅広い知識・経験・実践能力が要求される。試験は,毎年1回4月に実施される。合格者の平均年齢は39.1歳(2007年度の実績)。

石川 千尋(いしかわ ちひろ)
ITソリューションベンダー勤務。生産管理システムを中心に,ホスト系/オープン系開発,ERP適用/導入を経て,現在,生産管理分野のシステム企画を担当。保有資格は,情報処理技術者(システムアナリスト,システム監査技術者,プロジェクトマネージャ,上級システムアドミニストレータ,アプリケーションエンジニアほか),ITコーディネータ,プロジェクトマネジャー・レジスタード(PMR)。国際P2M学会正会員,日本システムアナリスト協会正会員。