2007年10月に誕生した「ゆうちょ銀行」の基幹系システムは、NTTデータが税込み231億円で受注した。将来の勘定系刷新を視野に入れた大型商戦は、最後に応札価格が予定価格400億円の6割を下回り、決定が先送りになるというハプニングを引き起こした。

 日本郵政公社が国際調達にかけた「ゆうちょ銀行」の基幹システムは、融資など銀行発足後に取り扱いを始める新商品の管理、店舗での販売支援といった機能を担う。稼働予定は2009年1月。預金商品や口座を管理する勘定系システムから独立しているが、数百億円規模の大型案件である。しかも、基幹システムは将来、勘定系システムと全面統合する可能性があり、国内最大級の情報システムを巡る前哨戦という意味合いがある。

 今回の入札には、「国内の400以上の有人店舗で稼働実績があること」という要件が設定されていた。これで、候補はメガバンクのシステムだけになる。さらに、ベンダーがソフトウエアの著作権を持っていることが実質的な要件として加わったため、旧UFJ銀行のシステムと、旧大和銀行のシステムに絞り込まれた()。

図●ゆうちょ銀行の基幹システムの候補とされた主なシステムと開発ベンダー
図●ゆうちょ銀行の基幹システムの候補とされた主なシステムと開発ベンダー

 キャスチングボートを握ったのはNTTデータ。同社は郵便貯金の勘定系システムを開発・保守している。入札対象の基幹システムには、この勘定系システムとトランザクションを密接に連携する仕組みを作り込まなければならない。NTTデータは「ウチと組めば開発効率が高まる」と、日立に共同提案を持ちかけた。NTTデータは、旧UFJ銀のシステムについて、「短期間で商品開発ができる」(NTTデータ幹部)と評価していた。結局、5月31日には日立のシステムを担いだNTTデータとIBMの2社が応札した。

 今回の調達は、システム性能と入札価格を勘案する「総合評価方式」。提案書に基づく性能評価では、「NTTデータの提案が大幅に上回った」と関係者は証言する。入札価格もNTTデータはIBMより低かった。

 NTTデータの受注は決定的かと思われたが、最後に落とし穴があった。NTTデータの応札価格が低すぎたのだ。郵政公社のシステム調達では、応札価格がベンダーの原価計算書などから算出した「予定価格」の6割を下回ると、決定を保留し価格の正当性を調査するルールになっている。品質低下につながらないか、確認するのである。予定価格の6割は240億円。応札価格は税込み231億円だった。

 本誌の取材によると、旧UFJ銀のシステムのうち、ソフトウエアのコスト見積もりが大きな差を生んだようだ。日立グループは2002年に旧UFJ銀から約500億円でソフト資産を譲り受けた。郵政公社はこの取得価格などを参考に原価を計算したもようだ。一方、NTTデータは、新規開発の必要がほとんどないソフトに関して、コストをほとんど計上しなかった可能性がある。NTTデータ関係者は「きちんと説明すれば問題ない」と話すが、決定は6月12日に持ち越された。