ケーブルテレビ(CATV)事業者による地上波放送の再送信制度の見直し作業が始まった。総務省が2007年10月5日に立ち上げた「有線放送による放送の再送信に関する研究会」(座長:新美育文・明治大学法科大学院教授)において,再送信制度に関する現状の問題点を洗い出し,その解決策を検討することになった。研究会は今後1カ月に1回のペースで会合を開き,解決策を盛り込んだ報告書を,2008年3月をメドにまとめる予定である。

 10月1日の初回会合では冒頭に,総務省の小笠原倫明・情報通信政策局長が,「地上デジタル放送の区域外再送信に関して,CATV事業者と地上波放送事業者の交渉が難航し,大臣裁定に持ち込まれるケースが出ている。現行の再送信制度の問題点を検討し,その解決策を見いだしてほしい」と述べた。小笠原局長が問題点を指摘したCATVによる地上デジタル放送の区域外再送信とは,地上デジタル放送の番組をCATV事業者が,地上波放送の免許エリア(県域や広域)を越えて再送信することである。地上アナログ放送と同様に地上デジタル放送でも区域外再送信を行いたいCATV事業者と,デジタル放送では認めたくない地上波放送事業者の間で意見が対立している。

 総務省によると,CATVによる地上アナログ放送の再送信サービスのうち,チャンネル数ベースで31%が区域外再送信になっている。これに対して地上デジタル放送の再送信では,区域外再送信の比率は現時点で11%にとどまっている。しかし,CATV事業者が区域外再送信を希望しているのは約800チャンネルに上り,そのうち地上波放送事業者の同意が得られているのは約150チャンネルにすぎないという。

 地上波放送事業者との協議で同意が得られなかった場合,CATV事業者は大臣裁定を申請し,区域外再送信の是非の判断を総務省に委ねることになる。しかし現行の大臣裁定の仕組みでは,“正当な理由”がない限り地上波放送事業者は,CATV事業者の要求を拒否できないことになっている。拒否できる正当な理由とは,地上波放送事業者の意図に反してCATV事業者が,番組の内容を変えたり歪曲したりして再送信する場合などである。つまり,CATV事業者が地上デジタル放送の番組に一切手を加えずに同時再送信するのであれば,CATV事業者の要求を認める裁定が下るのはほぼ確実なのである。

 実際に2007年8月17日には,地上デジタル放送の区域外再送信に関する初の大臣裁定が下され,福岡県の地上波民放事業者4社のデジタル放送を,大分県のCATV事業者4社が再送信することを認めた。2007年6月には長野県のCATV事業者2社が民放キー局5社を相手取って,大臣裁定の申請を行っている。長野県のケースでも大分県と同様に,CATV事業者の要求が認められる可能性が極めて大きい。

 こうした状況を受けて研究会では今後,(1)地上波放送の県域・広域免許制度を変えないことを前提に,区域外再送信を認めるかどうか,(2)区域外再送信を認める場合には,どのような条件を付けるか,(3)CATV事業者に有利な現在の大臣裁定の仕組みを存続させるかどうか,(4)大臣裁定の仕組みを存続させる場合には,どのように修正するか,(5)廃止する場合は,その代わりにどのような紛争処理の仕組みを導入するか──といった点について検討する見通しである。