今,米国はドットコムバブル以来の熱気にわいている。SNSの中に埋もれている金鉱を掘り当てようと,ゴールドラッシュに熱くなっているのだ。このゴールドラッシュの火付け役が,今回お伝えするFacebookである(写真1)。

写真1:Facebookのオフィス
 

 この熱気が尋常ではないことは,そこに流れ込む大量の資金からもうかがい知れる。MicrosoftがFacebookの総資産価値を約1兆2千億円(100億ドル)と評価し,その5%の株を取得しようとする動きや,GoogleやYahooがFacebookを買収しようと大金を用意して交渉に臨んだものの,失敗に終わったという噂も広まっている。

 それもそのはず,このFacebookには全く度肝を抜かされる。創始者のMark Zuckerbergは若干23歳。Harvard大学在学中の2004年にこのサービスの原形を作り,最初はHarvardの学生にだけ提供していたのだが,そのサービスを欲しがったBoston周辺の大学とその他の有名大学を中心にまたたくまに広まった。

 その勢いはおとろえを知らず,米国全土の一般の大学や高校まであっという間に掌握してしまった。2006年9月には,学生以外の一般人もメールのアドレスだけで登録できるようになっている。アクセストラフィックはすでにeBayを超えた。MySpaceを抜くのも時間の問題だろう(図1)。多くの学生がFacebook中毒に陥り,部屋にこもりきりになっているという。スタンフォード大学ではFacebookのアプリケーション作成講座を開くほどだ。とにかくこの騒ぎは尋常ではない。

図1:Alexaによる主なサイトのトラフィック統計

 どうやら,Facebookはこれから大きな地殻変動を起こすことになる「時限爆弾」のスイッチを入れてしまったようだ。正確には,今年5月24日の午後3時,Facebookはこのスイッチを入れてしまった。「Facebook Platform」を一般のアプリケーション開発者に開放し,Facebookの持つ巨大なSNSデータベースへのアクセスをかつてないスケールで許可したのだ。

人が人を呼び込み,瞬く間にソーシャルグラフ上に広がる

 SNSのデータベースは一般に,名前,年齢,性別といったプロフィールだけを集めたものではなく,そこには「人と人との関係(つながり)」が保持されている。「SNSデータベース」という言葉では,そういった意味合いをうまく伝えることができない。そのため,この特性を色濃く反映したコンテキストで使う場合,SNSデータベースのことを「ソーシャルグラフ」という言葉で表現する。グラフとは相関図のことであり,ソーシャル=人間関係と合わせて,人間関係相関図といったと意味合いになる。

 このソーシャルグラフの価値が今まさにFacebook上で“再発見”されつつある。友達の友達をたどると,その友達の数は指数関数的に増える。噂ばなしが,あっという間に広がるのはそのためだ。この原理がソーシャルグラフ上に見事に再現する。

 口コミ情報が広がる経路は複数ある。例えば,ある個人がインストールしたFacebookアプリケーションは,インストールと同時に他の友達にもすすめることができる。スライドショーのアプリケーションをインストールしたならば,他の友達にも同じアプリケーションを入れてもらえれば,自分の作ったスライドショーをシェアすることができる。だから,自分のスライドショーを他の友達とシェアしたければ,自分の友達にも同じアプリケーションをインストールすることをすすめるわけだ。

 また,Feed機能が組み込まれていることも大きく貢献している。友達がどういったアプリケーションをインストールしたのか自動的に知らせてくれるので,もし,その友達の行動に興味があるのであれば,自分もちょっと試してみようと思うことだろう。そして,自分のインストールしたアプリケーションのことは,他の友達にも同様のFeedメカニズムで通達される。

 こうして,人が人を呼び込み,あっという間にアプリケーションのインストール数がソーシャルグラフ上に広がることになる。この口コミ現象は英語では「Viral(バイラル)」という言葉で表現されことが多い。今後,この言葉も一般的に使われるようになるかもしれないので,覚えておいてほしい。

 さて,実際どれほど伝染力があるのか。RockYouという会社がその威力を知らしめる興味あるデータを提供している。SuperWallというアプリケーションは,Facebook本体が提供するWallというテキストベースのメッセージ交換アプリケーションの機能を拡張し,画像や動画を貼り付けてシェアできるようにしたものである。

 このアプリケーションのコンセプト企画案は6月15日の金曜日に出され,当日の晩にすぐにコーディングに着手し,週末をかけてコーディングを完成し,月曜日の早朝4時にリリースされた。その翌日には11万8000人がダウンロードし,3週間後には200万人のユーザーがこのアプリケーションをダウンロードしたという(表1)。驚異的な数字だ。

表1:SuperWallのリリースサイクル
企画6月15日 金曜日
設計6月15日 金曜日
実装6月15日,16日,17日
リリース6月18日 月曜日 早朝4時。即日11万8千人のユーザーを確保
宣伝開始6月19日 火曜日
利用者数3週間で200万人のユーザーを確保!

 また,現時点でソーシャルグラフの口コミの威力を有効に生かすことのできるプラットフォームになっていないMySpaceやBeboと比較すると,ユーザー数にして約7倍の効果が期待できるという報告があった(図2)。

図2:口コミ情報による効果の比較(RockYouビジネス開発担当副社長Rogelio Choyのプレゼンテーション資料より引用)

 これらのデータは,ソーシャルグラフを持つプラットフォームをこれまでにない広告媒体として利用できる可能性を示唆している。ゴールドラッシュというのもうなずける。

 ただ,まだ誰もその鉱脈を掘り当ててはいないのが現状だ。つまり,それをどのようにして確固としたビジネスに結びつけることができるのか,その手法が見つかっていないのだ。

 しかしながら,かつてのGoogleがそうであったように,その手法はいずれ必ず発見されるだろうという楽観的なムードが漂っている。どうなるかはわからない,でも何とかなるさ,といった不確定さに対する前向きな姿勢がアメリカ人の底力ではないだろうか。今のところFacebookの動きをじっと観察している巨人たちも,この現象がまやかしではなく本物であると確信した時点でこぞって動きだすことだろう。巨人たちが動き出すXデーは間違いなく間近に迫っている。