●お蔵入りしていたWeb技術の研究成果をAjaxで表舞台に
●1ドットのズレも見逃さずブラウザ画面を調整
●“クラサバらしさ”再現するため画面表示機能に工夫

 「Web2.0時代における業務システムのクライアントはどうあるべきか。そのテーマを突き詰めて生まれたのがこのソフトだ」。富士通研究所のITコア研究所ソフトウェアイノベーション研究部の松塚貴英氏は、自身の研究開発成果が基になった「Interstage Interaction Manager」(IIM)のことになると話が尽きない。「Web技術の研究に携わって10年。その間に練ってきた構想をようやく世に出せた」との思いがあるからだ。

 IIMは、Ajaxを活用してWebベースの業務アプリケーションのクライアントを手軽に開発するためのソフト()。Ajaxは現在、Webアプリケーションの操作性を高める手法として使われている。ただしその実体は簡易なプログラミング言語の寄せ集めであり、「操作画面のカスタマイズには便利だが、大規模なアプリケーション開発には向かない」とも言われる。

図●富士通のWebアプリケーション開発ソフト「Interstage Interaction Manager」
図●富士通のWebアプリケーション開発ソフト「Interstage Interaction Manager」
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 そのAjaxを、極めて精密な画面制御が要求される業務システムに取り入れ、高品質なWebアプリケーションを開発できるようにすること。これがIIMの最大の狙いだ。

 開発チームの技術者たちは流行のAjaxに、 1980年代から連綿と伝わるソフト開発手法を応用。ブラウザの表示結果を1ドット単位で調整するなど、泥臭い改良作業を積み重ねて完成させた。

Ajax流行をきっかけに再挑戦

松塚貴英●富士通研究所ITコア研究所ソフトウェアイノベーション研究部
松塚貴英●富士通研究所ITコア研究所ソフトウェアイノベーション研究部

 松塚氏がIIMのプロトタイプ版を開発したのは2005年。米グーグルの「Googleマップ」をきっかけに、Ajaxが急速に注目を集め始めたころだ。この取り組みは同氏にとって、過去にお蔵入りしたソフトの“リベンジ”とも言えた。以前にもJavaを使ったクライアント開発用ソフトを試作したが、時期尚早だったこともあり製品化につながらなかったのだ。

 松塚氏は一貫して「保守が容易で安定したクライアントを、迅速に開発できるソフト」を目指してきた。そのために積極的に取り入れてきたのが、80年代から現在のJavaにまで受け継がれる定番のソフト開発手法「MVCモデル」。今回のプロトタイプでもMVCモデルを生かし、画面の表示機能と制御機能を別々の“部品”として用意。それらを自由に組み合わせて迅速に開発できるようにした。

 このプロトタイプ版の存在はすぐに富士通ソフトウェア事業本部の目にとまり、一気に製品化の方向が固まった。まさにその時、「使いやすいインタフェースで、しかも業務システムでの利用に耐え得るWebクライアントを模索していた」(山田雅也ソフトウェア事業本部事業計画統括部プロジェクト課長)からだ。


山田雅也●富士通ソフトウェア事業本部事業計画統括部プロジェクト課長
山田雅也●富士通ソフトウェア事業本部事業計画統括部プロジェクト課長

 ただし製品版の完成までは、ほとんどゼロからの開発に等しい地道な作業の連続だった。「インターネットの世界で生まれた技術でも、業務システムで使う以上はソフトの品質をクラサバ並みに高めたい。それが製品の生命線になる」(山田課長)。そのために、山田課長らは富士通の現場SEからのヒアリングを通じ、顧客ニーズを徹底調査。ユーザー企業とのベータテストも繰り返し、ソフトの品質を高めていった。先に触れた「画面の表示結果を1ドット単位で調整する」作業は、ユーザー企業からの要望に応えたもの。異なるブラウザで寸分狂わず同じ画面にすることは難しいが、クライアント/サーバー(C/S)システムでは当たり前のように要求される。

 C/Sシステムの“流儀”はほかにもある。帳票処理のような定型業務の場合、「マウスは不要。ファンクションキーだけで操作したい」とのニーズが根強い。そこでブラウザ画面にファンクションキーの表示機能を追加してある(図)。

 こうした地道な改良を重ね、2007年6月にIIMの製品版が登場。「既に複数のユーザーと商談に入った」(製品プロモーション担当の堀江隆一ソフトウェア事業本部ミドルウェア事業統括部第二ミドルウェア技術部プロジェクト課長)と、まずは順調な滑り出し。研究者が長年練り上げた“技”と、開発現場の泥臭いこだわりが融合したこのソフトの真価が問われるのはこれからだ。