文化審議会の著作権分科会法制問題小委員会の平成19年度の中間まとめが平成19年10月12日に公表されました(注1)。それに続いて,10月16日にはパブリックコメントの募集も始まっています(注2)

 今回公表されたものは中間まとめですが,今後の著作権法改正についての方向性を示すものであり,コンテンツの供給側,ユーザー側ともに関係すると思われる項目が並んでいます。

 目次の項目は以下の通りです。

第1節 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について
第2節 海賊版の拡大防止のための措置について
第3節 権利制限の見直しについて
第4節 検索エンジンの法制上の課題について
第5節 ライセンシーの保護等の在り方について
第6節 いわゆる「間接侵害」に係る課題等について
第7節 その他の検討事項

 今回から数回にわたって,これらの中でITサービスに関係の深い項目について,検討してみたいと思います。

検討対象から外された特別法の制定

 第1節の「デジタルコンテンツ流通促進法制」は,知財戦略本部で決定された「知的財産推進計画2007」における,「デジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を整備する」という方針に基づいて検討されています。以下,該当する個所を引用します。

デジタル化・ネットワーク化の特質に応じて,著作権等の保護や利用の在り方に関する新たな法制度や契約ルール,国際的枠組みについて2007年度中に検討し,最先端のデジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を2年以内に整備することにより,クリエーターへの還元を進め,創作活動の活性化を図る。

 「デジタルコンテンツ流通促進法制」に関しては,研究者や団体が様々な意見を表明しています。具体的には,現行の著作権法とは別に特別法の制定を想定する,などです。また,コンテンツの登録制度も提言されているようで,小委員会ではその点についても検討を加えています。

 これらの提言の中で,「デジタルコンテンツ」に着目する特別法の制定は,とりあえず検討対象から外されるようです。以下は中間まとめからの引用となります。

「デジタルコンテンツ流通促進法制」の法形式の在り方については,多義的である「デジタルコンテンツ」に着目した特別法の制定の是非をまず論ずるのではなく,まず,著作権法に関して提案されている内容について検討し,求められる措置がいかなる内容のものかを見定め,その結果に応じて,最後に,どのような法形式が適当であるかを検討すべきものと考える。

 ここで指摘されているように,「デジタルコンテンツ」といっても様々です。アナログコンテンツをデジタル化したものもありますし,商業利用されるコンテンツがすなわちデジタルコンテンツというわけでもありません。デジタルコンテンツ自体は,中身のない概念であり,多義的な言葉ですから,法改正の枠組みでは使えない言葉という位置付けと考えて妥当だと思います。

 次に,中間まとめは「デジタルコンテンツ流通促進法制」を必要としているのは,インターネットでの二次利用(テレビ放送用コンテンツ等,二次利用があまり想定されていない)の問題であるとして,この点を中心に検討を加えています。以下に,該当する個所を引用します。

「デジタルコンテンツ流通促進法制」として経済財政諮問会議が課題として掲げているものは,「特定の流通媒体での流通など特定の利用方法を想定して既に製作されているコンテンツを,他の流通媒体(特にインターネット)で二次利用するにあたっての課題」と整理できると考えられる。

 ただし中間まとめを見ると,過去のコンテンツの二次利用の問題については,「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において検討が進められている」ので,その検討の状況を見守りつつ総合的に検討する,となっています。印象としては「デジタルコンテンツ流通促進法制」を積極的に整備しようとする意欲はなさそうです。

 確かに,コンテンツの二次利用の問題,特にテレビ放送用コンテンツがネット配信されていないのは,著作権法を含めた法律の問題と言うよりは,放送局のビジネスモデルの問題が大きいと考えられます(注3)。このため,あえて「デジタルコンテンツ流通促進法制」として検討する必要性に乏しいと言わざるを得ません。

 その一方で,デジタルコンテンツの流通促進の問題は,過去のコンテンツの二次利用に限られるわけではありません。

 中間まとめにおいても,ブログや掲示板といった,インターネット上で不特定多数が相互に推敲・改編を繰り替えしながら,創作に関与するコンテンツについて,流通の問題があることを指摘しています。ただ,この点については,現段階で,必ずしも利用形態の実態及びその実際上の課題が明らかになっておらず,利用実態や課題を調査・整理した上で検討するとしています。

権利強化と利用のバランスを図る簡易な許諾方法が必要に

 これまでの著作権法改正というと,どうしてもコンテンツ保有者側,すなわち権利強化という方向に動く傾向があります。ともすれば,著作権を強化することが著作権法としての進化であると勘違いしているのではないか。私自身はそうした疑問を抱いています。

 著作権強化が必ずしも“悪”というわけではありません。しかし,コンテンツの二次利用,二次創作が当たり前になった今,より簡易な権利許諾の方法を実現し,権利強化と利用のバランスを図ることこそが必要とされています。あるクリエイターの権利強化は,他のクリエイターの創作を縛ってしまう側面があります。単なる権利強化では,著作権法の目的である「文化の発展に寄与すること」(注4)ができないばかりでなく,阻害するおそれがあります。

 このような観点から,私自身はコンテンツ流通促進法制(注5)の整備が不可欠ではないかと考えています。中間まとめのこの問題に関するスタンスは少し消極的すぎるように思います。

 次回は,第2節の「海賊版の拡大防止のための措置」以下の項目について検討を加えます。

(注1)「文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理」に関する意見募集の実施について
(注2)同じ日に文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理についても意見募集が開始されています。違法サイトからのコンテンツのダウンロードを私的使用(著作権法30条)の適用外にするとの議論はこちらで行われています
(注3)詳しくは,「放送と通信の融合(3)融合を阻む放送局の収益モデル」参照
(注4)著作権法1条は法律の目的について次のように定めています。「この法律は,著作物並びに実演,レコード,放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め,これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もつて文化の発展に寄与することを目的とする」
(注5)著作権法の改正を行うためには条約との整合性の問題があるので,別の法律で,著作権登録や著作権管理団体へのコンテンツ登録を促進するインセンティブを別途与える方向で整備を進めるべきではないかと考えています


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。