2006年12月に始まったNTTのNGNフィールド・トライアルは,既に最終フェーズに突入した。NTT持ち株会社の三浦惺(さとし)社長は,2007年度下期の商用化に向け,11月の中間決算時に,NGNで商用として提供するサービス内容や利用料金などを明らかにする,と表明している。

 NTT持ち株会社は,(1)現在のフレッツ網とNGNをどのように併存させていくのか,(2)フレッツ網をNGNでどのように巻き取っていくのか──といった疑問については,一切明らかにしていない。しかし,現状のフレッツ網の構成と,NTTが表明しているNGN構想などを照らし合わせると,「どこがどう変わるのか」が浮かび上がってくる。

 フレッツ網からNGNへの移行で最も注目度が高く,かつ大きな課題を抱える変更点は,フレッツ網のサービスの要である収容局装置の部分である。

複数の収容局装置の機能をエッジに統合?

 NTT持ち株会社はNGNについて,「QoS制御が可能でセキュリティ対策も徹底したフルIP化されたネットワーク」,「既存の加入電話網を乗せ換えるだけでなく,映像配信などの新たなサービス提供を可能にするもの」などと説明している。その大まかなネットワーク構成として,局舎には「エッジ・ノード」と呼ばれる加入者収容装置を置き,その上位には「コア・ノード」と呼ぶ高速なパケット処理が可能な機器を設置するとしている。

 特に重要度が高いのは,既存のサービスを提供する機能を引き継ぎながら,QoSやセキュリティ機能などを新たに搭載するエッジ・ノードである。「エッジ・ノードは多様なサービスや機能を搭載し,複雑な処理を安定的に実施する必要がある。パケットの高速処理ができればよいコア・ノードよりもNGNにとって重要な機器」(ある通信機器メーカー幹部)だからだ。

 ここでNTT持ち株会社によるNGNの説明と,現行フレッツ網を見比べると,データ通信用とひかり電話用でそれぞれある収容局装置が,NGN用のエッジ・ノードに置き換わると考えられる(図3)。現在のフレッツ網と光プレミアム網の収容局には,データ通信用の収容局装置と,一般消費者向けと法人向けに分かれたひかり電話用の収容局装置が設置されている。NTT側は詳細を明らかにしていないが,NGNのエッジ・ノードは,これら三つの収容局装置の機能を一つのハードウエアに統合するものと推測できる。同時に,現状は収容局装置から分岐するデータ通信用の網と音声用の網が統合されて一つになる。

図3●フレッツ網とNGNの比較
図3●フレッツ網とNGNの比較
下記フレッツ網の点線部分がNGNで大きく変わるポイント。フレッツ網とNGNの並存期間中は,(1)フレッツ網とNGNのトラフィックを振り分ける機能をOLTに搭載する,(2)振り分け機能を持つ機器をOLTよりも網側に設置する,(3)フレッツ用とNGN用のOLTを分ける──などの方法が考えられる。

 あるNTTグループの幹部は,まだ正式決定ではないとしながらも「NGNの商用化後は,フレッツ網への投資はやめるだろう」と発言している。そうなると商用化以後,FTTHの新規ユーザーの大半をNGN側に収容する可能性は高い。2007年度末にはNTT東西合計で1000万ユーザー近くまで増やす予定のFTTHユーザーにも,NGNへの移行を積極的に進めていくと思われる。

「機能を搭載しすぎて大丈夫?」との声

 ここで気になるのが,NGNへ積極的にユーザーを収容していく上での課題がエッジ・ノードにある,という指摘が挙がっていることだ。

 具体的には,エッジ・ノードに多くの機能を搭載させ,その上で大量のトラフィック処理や安定運用ができるのかという指摘である。現状のフレッツ網は,ISP接続やマルチキャストなどを処理するデータ通信用の収容局装置と,ひかり電話用の収容局装置は別々の機器を使っている。NGNではこれらの機能を一つのハードウエアに統合して,フレッツ網にはないQoSや回線認証をはじめとするセキュリティ,輻輳(ふくそう)制御など多彩な機能まで搭載することが予想される。

 こうした中で,「NGNのユーザー数やトラフィック量が増え続けても,エッジ・ノードは円滑かつ安定的にトラフィック処理を実行できるのだろうか」,「“機能テンコ盛り”でありながら信頼性も高いという,そんな機器ができるのだろうか」という声がある。こうした指摘は,インターネット接続事業者や通信機器メーカーの関係者だけでなく,NTTグループ内でもささやかれている。

 NTTは,NGN用のエッジ・ノードにシスコとアラクサラ・ネットワークスの機器を利用する予定。一つの機器に複数の機能を統合し,運用する機器の数を減らすことによって運用負荷は下がる。その半面,機器ごとのトラフィック処理の負荷は上がる。NGNの信頼性向上や安定運用は,このエッジ・ノードの信頼性をどれだけ高められるかにかかってくるだろう。

 NGNフィールド・トライアルの一般モニターは,NTT東西合計で500人程度に過ぎない。商用化後,フレッツ網のユーザーが大量にNGNへ移行し始める時期にこそ,エッジ・ノードとNGNの設計品質が問われることになる。