NTT西日本のフレッツ網は,NTT東日本と大きく異なる。主な相違点は,(1)物理的な網構成,(2)ISP接続などのためのトンネリングの張り方,(3)通信機器の導入ポリシー──である。これらの違いが,「NTT東西のフレッツ網は名称こそ同じだが,中味は別物」と言われている理由である。

v6専用のネットワークを別構築

 NTT西日本は,v4とv6で物理的にネットワークを分けている(図2-1)。一つは,フレッツ・ISDNやフレッツ・ADSL,Bフレッツのユーザーを収容するために構築した,「既存のフレッツ網」(フレッツ網)だ。このネットワークは,v4のアドレスをメインで使っている。

図2-1●NTT西日本のフレッツ網とフレッツ・光プレミアム網の全体像/図2-2●NTT西日本のフレッツ・光プレミアム網の内部構成
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 もう一つが,フレッツ・光プレミアムのユーザーを収容するため,既存のフレッツ網とは別に新たに構築した「フレッツ・光プレミアム網」(プレミアム網)である。フレッツ網で提供しているFTTHとの違いは,(1)v6をメインで使っている,(2)FTTHのアクセス部分にGE-PONを採用している,(3)ひかり電話を使える,(4)セキュリティ機能を提供などである。現在のNTT西日本では,v6の光プレミアムがFTTHの主力サービスになっている。

 どちらのネットワークもNTT東日本と同様に,県内の網と,それらを中継する網が存在する。ただし,NTT西日本が管轄する県の数は30もある。これら30府県の県内網を,中継系の県間網で接続している構成だ。フレッツ網とプレミアム網の論理的なルーティング設計はそれぞれ,県内と県間でエリア分けされており,県間網でも管理エリアが複数に分かれている部分があるようだ。

トンネルを張る機器はユーザー宅の「CTU」

 フレッツ網とあえて別に構築した光プレミアム網の最大の特徴は,ISP接続などのためのトンネリングを実現する機能を,ユーザー宅内に設置する「CTU」(加入者網終端装置)と呼ぶ機器に搭載した点(図2-2)。つまり光プレミアム網では,収容局装置ではなくCTUが,(1)データ通信の転送先ISPを識別し,(2)ZCの網終端装置へトンネルを張って転送するという重要な二つの機能を持っている。そのため,ユーザー宅内の装置とはいえ,CTUまでをNTT西日本が管理する。

 こうした構成を採った理由は,機器の負荷分散を図るためである。プレミアム網を構築した当時,映像配信など広帯域が必要なアプリケーション利用が急速に広がり始めていた。そのため,「できるだけ負荷がかからず,効率的なネットワークにすることを考えた結果,CTUにトンネリング機能を持たせる構成になった」(NTT西日本の猪倉稔正 技術革新部技術部門IP技術担当部長)という。

 ISP接続などでトンネルを張る作業は,1ユーザー単位ではそれほど処理負荷が重くない。しかし何千ユーザー分ものトンネリングを収容局装置が一手に引き受けると大きな負荷になる。「CTUがトンネリング機能を持つことで,収容局装置はIPパケットの転送に特化でき,“化け物”のようなスペックの機器を置かなくて済む」(NTT西日本の築村佳典ネットワーク部ネットワーク設備部門NGN-NW担当部長)。

 このようにNTT西日本は,v4とv6のネットワークを物理的に別構築して二つに分け,さらに収容局装置の機能分散まで図るという,“分散型”の発想でIPネットワークを構築している。前述のように,NTT東日本はv4とv6を一つの物理的なネットワークに併存させ,収容局装置のトンネリング機能も分散させていない。NTT西日本とは対照的な,“集中型”と言える。

 機器を導入する際のポリシーも東西で異なる。NTT西日本は詳細を明らかにしていないものの,コア部分に米ジュニパー・ネットワークスの機器を入れているようだ。そのほかにも国産メーカーの機器を組み合わせるなどしてネットワークを構築している。NTT東日本は米シスコシステムズの機器を主に採用しているが,NTT西日本は「検討時点で最も最適な技術や機能を持つ通信機器を採用する方針。一定のメーカーにこだわらず,組み合わせるようにしている」(猪倉担当部長)という。