検討が進むNGNの標準化

 NGNやIMS/MMDを基盤としたFMC実現のための検討は,NGNの勧告を規定するITU-Tや,IMS/MMDを標準化する3GPP/3GPP2で進んでいる。

 ITU-TではNGNの標準化が精力的に進められている。NGN標準化の特徴として,図3に示すように対象サービスを軸とするリリースの発展が挙げられる。すなわち,各サービスに対して検討を行うリリース番号が割り当てられる。これらのリリースは一つずつ順番に協議するのではなく,部分的に平行して行うことで,効率的な標準化作業を実現している。

図3●ITU-TにおけるNGN標準化の段階的アプローチ
図3●ITU-TにおけるNGN標準化の段階的アプローチ
現在NGNリリース2の審議が行われている。
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 2006年7月に完了したNGNリリース1では,マルチメディア,PSTN/ISDNエミュレーション・シミュレーション,緊急通信などの通信サービスとしての基礎的な機能の実現を対象としていた。

 現在検討の中心となっているNGNリリース2には,FMC,IPTVやホームネットワークにおけるストリーミング・サービスが含まれる。特にIPTVについては,IPTV Focus Groupが設置されて集中的な協議が行われており,NGNにおけるトリプルプレイ提供に向けた標準化が期待される。また,これと同時にNGNリリース3についても徐々に検討が始まっている。

ITUでは三つの勧告案を審議

 ITU-TのSG(Study Group)13の課題6とSG19の課題2,課題5は合同で,FMCについて「Q.FMC-REQ」,「Q.FMC-IMS」,「Q.FMC-PAU」の三つの勧告案を審議している。ただし現在の勧告案はすべて一時的な名称で,勧告化される際に勧告番号が付与される。これらの勧告案に対して,特に中国や韓国が活発な提案活動を進めている。両国のFMCに対する関心の高さがうかがわれる。

 Q.FMC-REQはFMCの一般的な原則や,サービス,ネットワークに対する要求条件などを規定する。FMCを「あるネットワークにおいて,ユーザーの位置や固定・移動アクセス技術とは関係なく,サービスならびにアプリケーションをエンド・ユーザーに提供する能力」と定義する。

 Q.FMC-REQは想定するネットワークをNGNに限定しておらず,NGNにおけるFMCを「NGNのサービスを,アクセス技術にかかわらずエンド・ユーザーに提供すること」としながらも,現段階ではNGNのアーキテクチャとの関連は示していない。FMCを提供するNGN以外のネットワークとして,IMSベースのネットワーク,移動網(GSM/UMTS),固定網(PSTN),無線LANなどを用いたUMAまたはGAN(generic access network)などを挙げている。

 Q.FMC-IMSではIMSを導入したネットワークでFMCを実現するためのアーキテクチャを規定している(図4)。固定/移動アクセス網がともにIMSに収容される場合だけでなく,固定または移動の回線交換網(PSTN,GSM/UMTS)とIMSが相互接続された場合のFMCもスコープに含めている。

図4●IMSを導入したネットワークでFMCを実現するQ.FMC-IMS
図4●IMSを導入したネットワークでFMCを実現するQ.FMC-IMS
PSTNやGSM/UMTSとIMSが相互接続されたFMCも標準化の範囲とする。
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 Q.FMC-PAUは固定網にPSTN,移動網にGSM/UMTSを取り入れた音声サービスのためのFMCのサービスシナリオ,要求条件,アーキテクチャなどの規定を進めている。これはIMSのようにオールIP化されたネットワークでFMCを実現するのではなく,構築済みのネットワークでFMCを実現するもの。主に中国からの提案をベースに勧告化が進められている。

移動/固定間のローミングを実現

 3GPP/3GPP2は3G携帯電話と無線LANのデュアルモード端末を使い,固定アクセス網に設置された無線LANやBluetoothのAPを介して,IMS/MMDへの接続するGANの標準化を進めている。この仕組みにより,ユーザーに3G移動通信網と固定アクセス網のローミングやハンドオーバを提供できる。

 GANを経由したIMS/MMDへの接続では無許可のアクセスや盗聴を防ぐため,PDG/PDIFと呼ぶセキュリティ・ゲートウエイと端末の間にIPSecを使った暗号化通信路を確立する。

CASTでシームレスな切り替え狙う

 NGNでFMCを実現する例としてKDDIの例を紹介する。2005年,KDDIは「ウルトラ3G構想」と称するNGNビジョンを発表した(図5)。

図5●KDDIのウルトラ3G構想とNGN
図5●KDDIのウルトラ3G構想とNGN
アクセス・ネットワークに依存しないサービスの提供を可能にする。
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 これはKDDIが今後提供する移動通信(CDMA2000,1xEV-DO,WiMAXなど),固定通信(ADSL,FTTH,CATVなど)を含むアクセス・ネットワークをCDNを発展させたコア・トランスポート・ネットワークに収容。サービス制御には3GPP2で標準化が進められているMMDを導入して,アクセス・ネットワークに依存しないサービスの提供を可能にする。

 さらにサービスを制御するための共通インタフェースをSDPを介して利用することで多種多様なサービスを迅速かつ安価に開発・提供可能にする。

 FMCサービス提供に向けた取り組みの一環として,KDDI研究所はモトローラと共同でCAST(converged networks for advanced service and technology)の研究開発を進めている。これはVoIPやテレビ電話,メッセンジャーなどのコミュニケーション・サービスを対象に,IMS/MMDに接続された端末や,アクセス・ネットワーク,アプリケーションのシームレスな切り替えを,ユーザーの状況に応じて動的に行う技術である。

 CASTではユーザーが切り替え可能なリソース(端末,アクセス・ネットワーク,アプリケーション)を容易に把握できるようにするため,プレゼンス機能によって,ユーザーのオンライン状態だけでなく,ユーザーの持つ端末の情報(オンライン状態,利用可能なアプリケーション,アクセス・ネットワークなど)を収集し,提供する。

 ユーザーは取得した情報により,自分が置かれている状況や好みに適したサービス,それに利用するリソースを選択し,通話先のユーザーに提案。ユーザー同士のネゴシエーションで合意したあと,サービスを切り替える。サービスのネゴシエーションならびにリソースの切り替えのためのセッションの制御は,IMS/MMDの仕様に準拠したSIPによって行われる。

 CASTの一例としてAliceとBobがノート・パソコンを使ったテレビ電話をしながら,Bobがオフィスから帰宅する場合を見てみよう(図6)。Bobが屋外に出たとき,Bobは端末をノート・パソコンから携帯電話へ,アプリケーションをテレビ電話から音声電話へ切り替える。移動中に電車に乗る場合には,通話を切らずに文字によるチャットへ切り替えることもできる。

図6●CASTのネットワーク構成と利用イメージ
図6●CASTのネットワーク構成と利用イメージ
Bobは屋外では端末をノート・パソコンから携帯電話に切り替え,自宅に帰るとIPテレビ電話機を利用してAliceと会話を継続する。
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 Bobは帰宅後,端末を携帯電話からIPテレビ電話機とIP電話機へ,アプリケーションを音声電話からテレビ電話へ切り替える。このようにAliceとBobは状況に適したリソースへとシームレスに切り替えながら会話を継続する。

堀内 浩規(ほりうち・ひろき) KDDI研究所 執行役員
1985年,国際電信電話(現KDDI)入社。以来,ネットワーク管理,NGNなどの研究開発に従事。

磯村 学(いそむら・まなぶ) KDDI研究所 研究主査
1997年,日本高速通信(現KDDI)入社。ネットワーク管理,ITS,NGNの研究開発に従事。

今井 尚樹(いまい・なおき) KDDI研究所 研究主査
2003年,KDDI入社。ユビキタスネットワーク,ホームネットワーク,NGNの研究開発に従事。