(撮影:栗原克己)

「馬鈴薯の底力を引き出せ」。スナック菓子大手、カルビーの中田康雄社長の口癖である。ポテトチップなど同社商品の多くは馬鈴薯(ジャガイモ)が原材料であり、馬鈴薯の質と量を改善すれば本業を強化できる。馬鈴薯の底力を引き出すために、中田社長はIT(情報技術)を駆使する計画だ。米ガートナーのリサーチ部門最高責任者、ピーター・ソンダーガード氏が中田社長と対談し、カルビーの本業イノベーション戦略を明らかにする。



ピーター・ソンダーガード:ジャガイモ栽培のイノベーションを起こそうとしていらっしゃると聞きました。

中田康雄:ジャガイモの生産プロセスそのものにITを活用しようと、国内ではまだ珍しいチャレンジをしています。一例を挙げますと、「ウェザーステーション」と呼ぶ施設を設置しています。これは日照時間であるとか、風の量とか、気温、湿度、土の中の水分量、温度、そういったものをリアルタイムで測定するための機器です。そこで測定したデータを分析して、ジャガイモの生産をお願いしている契約農家に最適な栽培資料を送る、といったことを始めようとしています。

 この仕組みは、実はオランダの会社が開発したんですね。オランダの会社は様々な農業のデータベースを持っている。日本のウェザーステーションで取ったデータをオランダに送って解析してもらう。オランダから解析結果をもらって、契約農家に適切な助言をするという仕組みです。米国カリフォルニアのナパバレーはワインの名産地として有名ですが、ITによるコントロールで今日の地位を築いたと聞いています。そういう先進事例に学んで、日本でも同じことができないかと考えています。

ソンダーガード:カルビーの全契約農家に展開していこうとしているのですか。あるいは一部の農家に対してですか。

中田:現在はまだトライアルですから、限られた農家だけで実施しています。しかし、やがては我々の契約農家全体で共用したいと思います。これはインフラストラクチャですから、たくさんの人に使っていただくことで、1軒当たりの利用コストが下がりますから。

 ウェザーステーション以外にも、ITの活用を色々と考えています。ジャガイモの栽培プロセスは細かく数えますと、種いもの選択から始まって収穫まで10ぐらいのステップがあります。一つひとつのステップについて、とっているアクションを情報システムに記録し、適切かどうかをチェックする仕組みを検討しています。最終的に取れたジャガイモの品質と量と記録を照らし合わせて、栽培プロセス全体が適切であったかどうかを分析して、改善すべき点があれば翌年の栽培プロセスに反映させていくのです。

 ジャガイモ畑は一つひとつ特徴を持っているので、その土地に最適な栽培プロセスというのがあるはずです。それをなんとか探し出す。そして、継続的なプロセスの進化をデータベースによって実現しようというわけです。こちらはなるべく早く、契約農家全体に広めたいと考えています。一軒一軒の農家が創意工夫をしてベストプラクティスを生み出す、そういったものを共有して、全農家が活用していく、そんなインフラができればいいと考えています。

ソンダーガード:まるでIT会社のようですね。極端に言うと、ジャガイモ栽培やポテトチップの生産が2次的な仕事に思えるほどです。実際、多くの企業が起こしてきたイノベーションもそういうものです。ITを利用しながら、「サービス・インフラストラクチャ」を作って、その一部を外部に提供するのです。サービス・インフラストラクチャを構成するものは、ナレッジ、知識であり、データです。御社はまさに今、そういった変革をされようとしていると思います。

 多くの企業が抱えている課題は、実際に変革しようという意識はあっても、準備がまだできていないことです。管理職あるいは経営陣が変革に逡巡してしまう場合が散見されます。御社は社長が先陣を切って実行しようとされているわけで、素晴らしいと思います。