ドキュメント作成や課題管理に関する各種ガイドライン,運用ルールは作成されているが,うまく運用されていないことが多々ある。PMOは,その導入・定着を推進する“場作り”のために,実行力を発揮しなければならない。

川上愛二
マネジメントソリューションズ マネージャー


 プロジェクトの開始直後に,プロジェクト運営にかかわる「ガイドライン」や「運用ルール」を作成することが一般化してきました。「WBS(Work Breakdown Structure)はどのくらいのレベルで記述するか」とか,「課題の管理項目はこれとこれ」など,さまざまな決め事のことです。これも,PMBOKガイド(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)が普及してきたことの表れでしょう。

 しかし,なかなか運用が軌道に乗らず,「仏作って魂入れず」という状態に頭を悩ましているマネジャは多いのではないでしょうか。例を挙げれば,次のような問題が起こりがちです。

(1)WBSが最新状態に更新されない
(2)課題管理フォーマットがチームごとにバラバラになっている
(3)課題管理表に課題以外のToDoなどが混ざっている
(4)リスク管理表が更新されない
(5)定例会議の参加者が減ってくる

 プロジェクトの開始直後は,ガイドライン通りに運用しているかもしれません。ところが,徐々に陳腐化してきたり,チームごとに独自の方法で運用し始めたりするケースが多々見受けられます。一体,何が悪かったのでしょうか。

現場がルールを守らないワケ

 原因の1つに,ガイドラインや運用ルールが硬直的になっていることが考えられます。ガイドラインを改善するための更新フローがなかったため,各チームの判断で勝手にカスタマイズして運用してしまうのです。

 例えば,課題管理表のフォーマットについて,「担当」欄をシステム側担当者とユーザー側担当者の2つに分けたいという要望があるチームで出てきたとしましょう。そのチームでは,「これくらいの変更なら問題ないだろう」とか,「そもそも誰に変更要望を知らせるべきか分からない。まぁいいか」と考えてしまいやすい。これが原因で課題管理フォーマットのカスタマイズが起こるわけです。
 こうしたカスタマイズがチーム内だけに閉じたものならまだいいのですが,大抵はプロジェクトマネジメントや他のチームに影響を及ぼしてしまいます。プロジェクトマネジメント側は,課題リストからいろいろな集計作業を行っているはずです。課題管理表に対する小さな変更であっても,それらの集計作業に影響を及ぼすでしょう。

「改善」をしつこく,楽しく

 プロジェクトの状況は日々変化しますので,ガイドラインや運営ルールについても適宜改善が求められます。改善を怠ると,すぐ陳腐化,形骸化が始まります。PMOが更新フローについて明確化し,また各チームの状況をヒアリングし,その都度ガイドラインの見直しを実施することが必要です。特に次フェーズへの準備として,ガイドラインの更改を行うことは必須であると考えます。

 プロジェクト運営ルールの徹底は一朝一夕ではいきませんので,PMOが主体的に運用・定着化を実践していくことが大切です。ガイドラインを作成して終わりではなく,実行段階における各チームへのフォローアップが欠かせません。

 運用ルールを定着させる中でルールの陳腐化が発見されたら,従来とは違う方法を試してみるなど,迅速に手を打つべきです。また,成果が出るまで改善を続ける「しつこさ」が必要だと感じています。

 さらに,「変えようとするカルチャー」を大切に育み,「改善のプロセス」を楽しくして,自立的な改善サイクルを確立していくことが何より必要でしょう。このサイクルの中心にいるべき存在は,もちろんPMOです。


川上愛二(かわかみ あいじ)

 大学卒業後,独立系SIコンサルティング会社のシーアイエス(現ソニーグローバルソリューションズ)に入社。グローバルSCMシステム開発などの大規模プロジェクトを経験。

 現在は,コンサルテーションから,自社開発のソフトウエア提供,改革実施後のチェンジマネジメントまで,「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズに在籍。各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp