KDDIは11月12日から端末の新しい販売体系「au買い方セレクト」を導入する。11月12日以降にauの携帯電話を購入(新規契約または機種変更)した際は,端末補助金ありで現行の料金プランを適用する「フルサポートコース」,または端末補助金なしで低廉な料金プランを利用できる「シンプルコース」のいずれかを選択することになる(写真)。新しい販売体系の導入で何がどう変わるのか,今後の影響を分析した。

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シンプルプランが適するユーザーは限られる


写真●KDDIのホームページで公開されている「au買い方セレクト」のパンフレット
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 まず今回から新設された「シンプルプランS/L」を見てみよう。同プランを選べるシンプルコースは端末補助金が付かない一方で,毎月の利用料金が割安となる。ただし,「かなり思い切った料金を設定した」(取締役執行役常務の高橋誠コンシューマ事業統轄本部長)と言う割りには安く感じられない。端末補助金の有無に関係なく,単純にフルサポートコースの料金と比較しただけでも割高になるケースがあるのだ。

 例えば,フルサポートコースの「プランS」とシンプルコースの「シンプルプランS」を比べてみる。まずプランSの基本料は月額4935円だが,「誰でも割」を適用すると半額の2467.5円になる。フルサポートコースは2年間の契約期間が必須となった。このため,2年間の継続契約を条件に半額となる,誰でも割を利用しない手はない。これに対して,シンプルプランSの基本料は月額1050円で,プランSよりも1417.5円安い。ところが,プランSには2100円(最大62分)の無料通話分が含まれている。結局,計算してみると,毎月の通話時間が45分~317分の場合はプランSの方が安いということになる(注1)。なお,パケット通信料に関しては両者に違いはない。

 同様に,フルサポートコースの方が得という例はほかにもある(注2)。毎月の通話時間に応じて,それぞれのコースの料金プランを比べてみて,フルサポートコースの方が安いのであれば迷うことなくフルサポートコースを選ぶことになるだろう。2年間の継続利用という条件が気になるところだが,契約期間中に解約・一時休止・機種変更する際にかかる「フルサポート解除料」が2万1000円の端末補助金の額を超えることはない。つまり,2年以内に解約して解除料を支払うとしても,端末補助金の全くないシンプルコースよりも不利になることはないのだ。

 また,シンプルプランの方が安い場合も,端末補助金を加味すると,トータルではフルサポートコースの方が安くなるケースは多いと思われる。例えばシンプルプランSは基本料が安いので「待ち受け専用」に向くと思うかもしれないが,2年間継続して利用するのであれば,フルサポートコースでプランSSを契約した方が断然お得である(注3)。

 このようにシンプルプランは中途半端な位置付けにあり,2年間の継続利用条件が付いてもフルサポートコースを選ぶユーザーは多いだろう。シンプルプランはフルサポートコース終了後の切り替えが中心になると思われる。

端末価格が急に上昇することはない

 では,フルサポートコースは現状と何が変わるのか。最も大きな違いは,ユーザーに対して端末補助金「購入サポート」が支払われること。これまでは代理店に販売奨励金を支払い,代理店がそれを原資に端末を値引きして販売していた。今後は「継続利用契約なし」と「2年継続利用契約」のそれぞれの価格が店頭に示され,後者の場合は前者より2万1000円値引かれる。前者はシンプルコース,後者はフルサポートコースに対応している。

 わざわざこのような方式に切り替えるのは,端末価格に対する不透明感をふっ拭するためである。端末補助金は一律2万1000円だが,「今後は継続利用契約の期間が長くなるほど端末補助金を高くするなど,契約期間と端末補助金の組み合わせを増やすことも考えている」(高橋取締役)。

 ユーザーが気になるのは,端末補助金があるとしても,最終的に「端末購入価格が高くなるのか」だろう。それを今回のKDDIの発表だけで判断することは難しい。端末販売価格の決定権は携帯電話事業者ではなく,代理店にあるからだ。販売奨励金を原資に1円で売るのも,仕入れ値のままで売るのも代理店の自由である。代理店の経営判断次第になる。

 ただ実際は,今後も端末の購入金額は現状と大きく変わらないと見ていいだろう。端末補助金はこれまで代理店に払っていた販売奨励金から捻出されることになる。端末に対する販売奨励金が「購入サポート」に変わることで代理店の取り分は減るが,販売奨励金が完全になくなるわけではない。

 一口に「販売奨励金」と言っても種類は多岐にわたる。名称や内容は事業者によって異なるが,端末の機種変更時に払う「機種変更奨励金」,サービスの新規契約時に払う「新規成約奨励金」,オプション・サービス契約時に払う「オプション獲得奨励金」(注4),1カ月間で獲得した回線契約数に応じて払う「契約獲得数奨励金」,新規契約の獲得後に一定期間払う「契約継続奨励金」などがある。

 これらの販売奨励金のうち,購入サポートとして端末補助金に変わるのは一部だけ。販売奨励金を原資に端末を大幅に値引きしていた代理店にとっては,新しい販売体系の導入後も実質の利益はさほど変わらないと思われる。急に販売価格を値上げして利益確保に動くとは考えにくい。

 仮に販売価格が急上昇するようなことがあれば,KDDIが対策を打つだろう。自社だけ販売価格が高いとなれば,ユーザーが他社に流れていくのは明白だ。事業者の立場からすれば,放置するわけにはいかない。実際,高橋取締役も「11月12日の前後でいきなり大きく変わると混乱を招く可能性があるので,当面は激変緩和措置を実施する」としている。仮に11月12日以降に販売価格が急上昇したとしても,いずれは他社と並ぶ価格帯に戻るはずだ。1円端末もなくならないと見ていいだろう。

 なお,格安端末という意味では,ソフトバンクモバイルのような割賦販売方式で頭金なしの“0円端末”もある。KDDIは今回,割賦販売方式の導入は見送った。「我々が用意しなくても信販会社の割賦払いを現状でも利用できる。ソフトバンクモバイルは(端末に対する月々の支払いの一部を)通信料金から割り引くことで,自ら割賦販売を提供するような仕組みになっているが,そこは市場の仕組みに委ねようと考えている。とはいえ,我々自身が提供した方が良いと判断するときが来るかもしれない。引き続き検討する」(高橋取締役)としている。

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事業者は奨励金の未回収リスク軽減,優良顧客の満足度も向上

 これらの点を総合すると,ユーザーにとっては現状と大きく変わらないと言える。ただ,KDDIにとってはいろいろな面で重要な意味を持っている。個人的には非常によく練られたプランだと感じている。

 最大のポイントは,端末補助金を確実に回収できるスキームを導入した点だ。ユーザーが端末を頻繁に買い替えると,事業者は販売奨励金を回収しきれずに終わる可能性がある。そこで12カ月以内は1万8900円,18カ月以内は1万2600円,24カ月以内は6300円と,利用期間に応じた解除料を導入し,未回収リスクを大幅に軽減できる仕組みにした。金額も,誰でも割の解除料(9975円)などに比べて厳しい内容になっている。また従来は割引サービスを契約していなければ解除料を徴収できなかったが,端末に解除料をひも付けることで,転売を目的とした「新規契約→即解約」を防ぐ効果も期待できる。

 では,得をするのはKDDIだけかというと,そうとも言い切れない。今回,au買い方セレクトと同時に,毎月の利用料金が高いヘビーユーザーを優遇するポイント制を新設し,優良顧客の満足度向上に配慮したからだ。毎月の利用料金に応じたポイントの付与率を従来の2~3.5倍に引き上げ,たまったポイントを解除料に適用できるようにした。KDDIによると,毎月平均1万4000円を利用しているユーザーであれば1年間でポイントが約1万2000ポイントになり,このポイントで18カ月以内のフルサポート解除料(1万2000円)を相殺できるとしている。同様に毎月平均6400円のユーザーであれば18カ月間でポイントが約6000ポイントになり,24カ月以内のフルサポート解除料(6000円)を相殺できる。

 つまり,一定以上の利用実績のあるユーザーであれば,機種変更まで必ずしも2年間待つ必要はないというわけだ。

 一般に,従来の販売奨励金方式は,「端末を頻繁に買い替えるユーザーと,そうでないユーザーで不公平がある」と言われるが,必ずしもそれは正しくない。不公平の度合いは,端末の買い替え頻度だけでなく,毎月の利用料金や購入機種によっても変わってくる(注5)。端末を頻繁に買い替えるユーザーでも,毎月の利用料金が高ければ,短期間で販売奨励金分を支払っていることになる。一方,同じ端末をある程度の期間使い続けるユーザーでも,安価な料金プランでほとんど通話をしなければ,販売奨励金で得をしていると言える。事業者の立場からすれば,真の優良顧客は前者になるだろう。

 フルサポートコースでは端末補助金を確実に回収してリスクを減らし,ヘビーユーザーには相応の待遇を用意して優良顧客の満足度を高める。一方,シンプルコースでは,通信料金と端末価格の内訳を明確化せよとする総務省の要請に応えた。KDDIは,割賦販売の導入でリードするソフトバンクモバイルの新スーパーボーナスに対しても「ヘビーユーザーとそうでないユーザーとの間で不公平が存在している」(高橋取締役)として,公平という意味ではKDDIの方が上という自信を見せる。

 さて,こうなると,気になるのはNTTドコモの動きだ。NTTドコモは割賦販売制度を取り入れた販売モデルを導入するという一部報道がなされている。ただ,割賦販売制度を導入するとしても,ソフトバンクモバイルの新スーパーボーナスとは違った手法を取り入れてくるはずだ。NTTドコモは,10月中には新しい販売モデルを発表する予定。同社の次の一手に注目したい。

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